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「赤鼻のトナカイ」の科学的真実! サンタのソリをひくトナカイは「メス」なんです

赤鼻の正体は、毛細血管の充血

言うまでもなく、実際のトナカイは“フォグランプ鼻”を搭載していません。
ただし、トナカイは鼻粘膜の毛細血管の密度が高いため、血管が充血したとき、鼻が赤く見えることはあるようです。
クリスマスソングの歌詞にあるようにピカピカに光るほど赤くはないですが……。

人間でも寒いと鼻が赤くなることがありますよね。あれと同じです。
人間もトナカイも鼻のまわりには毛細血管(鼻粘膜血管)がたくさんあるのですが、トナカイは、なんと人間よりも25%もその血管密度が高いことがわかっています。

鼻周辺が白い個体であれば、寒いときに鼻や唇がピンク色に染まる。サーモグラフィで見てみると赤の部分は他より体温が高い。(イラスト/大渕希郷)
鼻周辺が白い個体であれば、寒いときに鼻や唇がピンク色に染まる。サーモグラフィで見てみると赤の部分は他より体温が高い。(イラスト/大渕希郷)

トナカイの生息地はとても寒いため、吸気のたびにその寒い空気を吸い込んで、脳まで冷えてしまいます。
多少冷える程度なら問題ないのですが、冷えすぎると脳にダメージがかかる場合があり、肺や気管にも負担がかかる場合があります。
そこで、鼻まわりの血管を拡張させて空気を温めてから吸うわけです。
これによって鼻が赤やピンクに見えることがあります(もちろん、病気やケガで赤くなることもあるのでご留意ください)。

一方で、逆に運動をしたことで体温が上がりすぎてしまうことによる脳の過熱も防ぐことができると思われます。
要するに、鼻を介して空気を温めるということは、鼻の血管の熱は奪われることになり、ラジエーターのような機能を果たしているわけです。

もし物語のように、トナカイがあの体重の生物(サンタさん)を乗せて、空気が薄く寒い上空を飛ぶのとしたら、ラジエーターである鼻の役割はとても重要でしょう。
寒い上空の空気を温めてから吸ったり、あるいはオーバーワークで上昇しすぎた脳の温度を冷やしたりするのに必要だからです。
さすがに歌のように、光るほど、つまり鉄を打つときのような発熱発光するほどの温度ではないにしろ、鼻も真っ赤になり得るかと思います。

私の元勤務先である上野動物園にトナカイはいませんでしたが、上野動物園と経営母体を同じくする多摩動物公園ではトナカイが飼育されています。
他にも日本各地にトナカイを展示している動物園がありますので、機会があればぜひ実物を見て、実際の鼻はどうなっているのか、じっくり観察していただけたらと思います。

●主な参考文献
“Robert May Tells how Rudolf, The Red Nosed Reindeer Came into Being”. The Gettysburg Times. (1975年12月22日)

Can Ince. et.al.“Why Rudolph’s nose is red: observational study” BMJ 2012 Dec 14;345:e8311

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新刊紹介

大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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