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検察官の誘導テクニックは、一流の不動産営業マンに似ている──作家・新庄耕が、プレサンス元社長・山岸忍に聞く【前編】

Netflixシリーズ『地面師たち』の原作や不動産営業マンを描いた傑作『狭小邸宅』で知られる作家・新庄耕さんが、「土地」にまつわる様々な事象や事件を取材する新連載がスタートします。
今回は、2019年に大阪地検特捜部により逮捕され、21年に無罪を勝ち取った、プレサンス元社長・山岸忍さんへのインタビューの前編をお届けします。
(やまぎし・しのぶ)1963年、滋賀県生まれ。同志社大学法学部卒業後、大京観光(株)入社。(株)創生を経て97年に(株)プレサンスコーポレーションの前身会社設立。2020年全国分譲マンション供給戸数トップの業界大手に成長させる。19年12月、大阪地検特捜部に横領容疑で逮捕されるも、21年11月、無罪判決確定。
(やまぎし・しのぶ)1963年、滋賀県生まれ。同志社大学法学部卒業後、大京観光(株)入社。(株)創生を経て97年に(株)プレサンスコーポレーションの前身会社設立。2020年全国分譲マンション供給戸数トップの業界大手に成長させる。19年12月、大阪地検特捜部に横領容疑で逮捕されるも、21年11月、無罪判決確定。

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 山岸忍氏の人間性を一言であらわすなら、「不屈の精神力」になるだろうか。

 京都にある山岸氏の自宅兼オフィスで対面した私は、眼光するどいその表情に、幾多の修羅場をくぐりぬけてきた人間特有の鉄の意志を見た思いだった。視線を合わせるだけで全身に緊張が流れる。私は胸内の妙な昂ぶりを自覚しながら、インタビューをはじめた──。

   ☆

 2019年、学校法人明浄学院の土地売却代金21億円の横領に共謀したとして、当時東証一部上場企業であるプレサンスコーポレーションの社長だった山岸忍氏は、元部下や学院の元理事長らとともに、業務上横領の疑いで大阪地検特捜部により逮捕された。
 当初から一貫して無実を訴えていた山岸氏は、9人の辣腕弁護団を結成し、「共謀した事実は一切ない」として全面的に大阪地検と争った。拘置所での勾留は248日間におよび、勾留期間中には長年育てあげた会社も失った。しかし、山岸氏は屈することなく無実を訴えつづけた。2021年、大阪地方裁判所は無罪を言い渡し、その後大阪地検が控訴を断念したことで山岸氏の無罪が確定している。
 
 山岸氏の著書『負けへんで! 東証一部上場企業社長VS地検特捜部』(文藝春秋)では、山岸氏が逮捕されてから無罪を勝ち取るまでの過程が当時の心情とともに克明につづられている。長期勾留で追い詰められ、幾度も挫けそうになりながら、それでも戦う姿勢を崩さない氏の姿勢には、思わず胸が熱くなった。

 現在、山岸氏は、国を相手取り、7億7千万円の損害賠償請求を求めて争う一方、不動産会社ツクヨミホールディングスを立ち上げ、新たな人生を楽しんでいる。いまの率直な心境をうかがった。

黙秘をしなかった理由

──山岸さんが大阪地検特捜部に逮捕されたとき、担当弁護士から黙秘をすすめられても、それを突っぱねたと本書では書かれています。山岸さんはどうして黙秘されなかったのですか?

 黙秘する意味が、分からなかったんですよね。無知だったというのが一番ですわ。(検察が)こんな悪いやつらということを知っていたら、黙秘していました。私はその当時、検察官を正義の味方と信じ込んでいましたんで。

 しかも取り調べが始まってから2カ月近く、ほぼ毎日呼ばれます。毎回5時間以上一緒にいるわけです。人間関係が完全に出来上がってしまった。また、担当した検察官の女性が本当に巧妙で、あっぱれというか、自分がどんな人間なのか「自己開示」することで、距離をがっと縮めてくるんですね。それで完全にこっちは「この女性検事はいい人なんだ、俺のこと分かってくれているんだ」と思い込んでしまった。

 逆に、刑事弁護士には逮捕される約5日前に初めてお会いしたんですよ。だから、まったく人間関係できていない人に「黙秘せえ」って言われたって、「俺、何も悪いことしてへんのに黙秘する必要はない。俺は全部、自分が思っていること、自分の認識を全部話す」と考えてしまったんですよ。

──大阪地検特捜部は、最初から山岸さんの逮捕ありきで動いていた?

 最初から「こいつをパクろう」だと思いますよ。だって、21億円の横領事件、大きいじゃないですか。それなのに、登場人物は大したことないわけですよ。その中に上場企業の社長で、しかも金の流れに関わる山岸がいた。それで「こいつを何としてもパクったらいい」と考えたと思います。

あまりにずさんな捜査

──本書を読みながら、あまりにもずさんな捜査だと思いました。2009年に大阪地検特捜部は、証拠改ざんによる冤罪事件「村木事件」を引き起こしています。その反省、教訓がまったく生かされていない。なにも体質が変わっていない。落ち度のない山岸さんの人生はそれで完全に狂わされてしまった。憤りをおぼえます。

 検察官ってそういうものなんですよね。彼らは世間のこと何も知らないんですよ。

──メールを少し調べたら山岸さんが事件とは関係ないことがすぐにわかりそうなものなのに。

 メールをはじめとした客観証拠を全く見てないと思いますよ。プレサンスの電子メールに客観証拠がいっぱいあったんです。それをちゃんと見てたら絶対、逮捕してないはずですよ。最初の取り調べから逮捕するまでの1カ月半でプレサンスの膨大な電子メール、全部見れるわけないです。

──本書には、大勢の弁護士を使って35テラバイトに及ぶメールのデータ解析を行ったと書かれています。その作業に、延べ何人ぐらい弁護士が関わったんですか。

 そういう作業する人たちを入れたら、たぶん20人近いと思います。

──弁護士のタイムチャージにも莫大な費用がかかっている。山岸さんでなければほとんどの人はそんな費用を工面できないと思います。真実が見えないまま有罪になった人がこれまで大勢いたのでしょうね。

 そうだと思いますよ。たぶん、これまで私みたいなことした被疑者いないと思うんですよね。資産と信念がないとできない。

 検察官には想像力がないんですよ。だから、客観的証拠もちゃんと見ないまま、元部下と取引先の社長を無理やり締め上げて、供述をねじ曲げて、それだけで私を逮捕してるんですよね。

──山岸さんと元部下の取り調べ録音録画を精査し、法廷で一部公開されましたが、それは史上初のことです。社会に与えた意義は大きかったように思います。

 これも、弁護士のマンパワーをたくさん雇える経済力があったから勝てたっていう部分がある。じゃあ「経済力なかったら冤罪にされる」なんておかしな司法はないですよね。起訴されたら99.9パーセントの有罪というのは、検察官が優秀なわけでは絶対ないと思いますよ。そういう司法制度になってるんです。もう、ここを変えないといけないんじゃないかなと。

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新庄耕

しんじょう・こう
1983年京都府生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2012年『狭小邸宅』ですばる文学賞受賞。著書に『ニューカルマ』『カトク 過重労働撲滅特別対策班』『サーラレーオ』『地面師たち』『夏が破れる』など。最新刊は『地面師たち ファイナル・ベッツ』。

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