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Twitterで〈刺さる〉小説を書く方法【麻布競馬場×新庄耕 創作対談】

 麻布競馬場さんの最新刊『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』は、発売前から大きな話題を呼び、発売前増刷&即重版がかかりました。

 刊行を記念して、麻布さんが大ファンだと語る、新庄耕さんとの対談が実現しました。『狭小邸宅』を筆頭に、新庄さんの作品もTwitterで頻繁に話題に上がります。二人の作品に共通するSNSで〈刺さる〉現象は何なのか、たっぷりお話しいただきました。
(構成/長瀬海、撮影/長谷川健太郎)

Twitter小説とは何か

麻布 新庄さんの『狭小邸宅』が大好きで勝手にバズらせてたら、かつて『狭小邸宅』を担当した編集者さんからDMが来て、僕がTwitterで書いていた小説を一冊にしませんかってお声がけをいただいたんです。なので、何もかも新庄さんのおかげっていうか(笑)。

新庄 いやいや、私は何もしてませんよ(笑)。麻布さんの小説読ませてもらいましたけど、すっげえ面白かった。最初の「3年4組のみんなへ」なんて完成度が高過ぎて驚きました。これはなんなんでしょう。Twitter小説っていう新しいジャンルになるんですか? これまでもTwitterで小説を書いていた人はたくさんいたけど、それとは全然違う。

麻布 僕もそこは気になって、ちょっとTwitterのツリー形式で書かれた小説の系譜を調べてみたんです。僕が調べた限りでは、どうもああいうツイートを始めたのは「全国宅地建物取引ツイッタラー協会」、通称、「全宅ツイ」が最初らしいんです。

新庄  全宅ツイさんにはお世話になっています。私も名誉会員です。

麻布 その全宅ツイのグルさんが2021年の6月くらいに、「タワマンに住む人の中では最低クラスの自分が送っている惨めな生活」という設定のフィクションをツリー形式で連続ツイートしたのがバズったんですね。タワマンは水の沸点が低いから、夜のうちに炊いておいた米が硬いみたいな内容を投稿していて。そういったものを窓際三等兵さんというアルファツイッタラーが一つの型へと磨き上げたという流れみたいです。それが「タワマン文学」とも呼ばれるようになった。

新庄 なるほど、そこで一つの型ができたんですね。ということは、割と最近なのか。

麻布 そうですね。この一年くらいの話です。

新庄 140字のブロックで作られる小説って、新鮮で興味深く読みました。単純に紙媒体メインの僕のような小説家が書いてきたものとは、読んだときの感覚が根本的に違うんです。断片的なんですけど、詩でもないし。こういう書き方があるんだって驚きました。あと、固有名詞の扱い方。Twitterで書かれたものがほとんどなので、当然と言えば当然なんですが、固有名詞を躊躇なく出すじゃないですか。固有名詞ってあらゆる文章表現のなかで一番腐りやすいものなんですよね。だから僕なんかはつい避けてしまいがちなんですが、麻布さんはそれを思いっきり逆手に取っている。徹底的に固有名詞を使って物語を組み立てていて、すごく新しい感じがしました。

麻布 もともと僕は本にまとめようなんて思ってなかったし、小説で名を上げてやるんだって気持ちも持ち合わせてなんかないんです。とにかくインターネットで面白がってもらえる文章を書きたいってことだけを考えていて。2ちゃんねるの時代から、コピペ文化ってあったじゃないですか。例えば、白木屋コピペ。白木屋でばかり飲んでる友人に語りかける、哀愁漂う感じのテンプレが流行りましたよね。ああいうのが僕、すごく好きで。そのイメージで書いてたりするので、固有名詞の賞味期限みたいなのは特に気にせず書いてます。

新庄 それが実に効果的。逆に、これ、固有名詞なかったら成立しないと思うし。ちょっとダサい固有名詞とかもあえて使ってますよね。収録作の「30まで独身だったら結婚しよ」では、語り手の女性が大学時代に友達なのか彼氏なのか曖昧な存在だった男と、30歳になって再会する。そのときの彼のファッションを「オリバーピープルズの偽物みたいな繊細なフレームのメガネ。ナチュラルなセンター分け。駅前のユニクロで買い揃えたらしい黒いニットとグレーの感動パンツ」って描写しますよね。20年後にこの作品が読まれたとき、「感動パンツ」ってなんだよって話になると思うんです。だけど、確かにそれは2022年の現在に生きる僕たちの身の回りにある固有名詞なわけです。そうした名詞を作中に意図的にちりばめている作風って、田中康夫の『なんとなく、クリスタル』に近いのかなって思いましたけど。

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麻布競馬場

あざぶけいばじょう
1991年生まれ。慶応義塾大学卒業。
著書に『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)、『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)。

Twitter@63cities


(イラスト:岡村優太)

新庄耕

しんじょう・こう
1983年京都府生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2012年『狭小邸宅』ですばる文学賞受賞。著書に『ニューカルマ』『カトク 過重労働撲滅特別対策班』『サーラレーオ』『地面師たち』『夏が破れる』など。最新刊は『地面師たち ファイナル・ベッツ』。

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