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鈴木涼美「×××な男~酒と泪とオトコと美学」

メンヘラ製造男~すこーし愛してながーく愛してはキツイ話

私がこういった状態の女に危機感を覚えるのは、かつて非常に身近にあったホストクラブの世界とものすごく類似した形だからだ。

ホストの怖いのは会計が天井知らずで高いとか、売掛で飲ませて手段を選ばず回収するとか、そういったことではなく、この、願いの一部は確実に満たしてくれるけど、完全に満たしてはくれない、という状況がデフォルトで設定されていて、完全に満たされた状況というのが絶対に達成されないのに、中途半端に満たされる状況が続いてしまうために抜け出せなくなるところである。

本カノ営業、やらず本営、友営枕……の根底にあるもの

一緒にいる時間は愛しい、でも一緒にいない時間は不安、となればオンナは一緒にいない時間をなるべく減らそうと、店に行く頻度が増え、店でボトルを開けてホストを呼び戻す頻度が増え、店で一番お金を使って店の営業終了時に一緒にいてもらおうとする頻度が増える。
ホストに呼ばれればすぐに動けるようにするために夜に別の予定を入れないようになるし、会う時間を増やすための資金繰りに時間のほとんどを費やすようになるし、一緒にいない時間は掲示板やSNSを使った情報収集に使うようになるし、でも一緒にいる時間は相変わらず幸福で一緒にいない時の苦労が相殺されたような気分になるためにそれをやめようという気分にならない。

 

巧みなホストは客を孤立させて判断能力を奪う
巧みなホストは客を孤立させて判断能力を奪う

ホストの世界には、一部はあげるけど全部はあげない、ということに特化した業界用語があって、「本カノ営業」「やらず本営」とか「友営枕」「色恋枕」とかいうのがそうだ。

本カノ営業」は実際に「付き合う」を言葉にして、客を彼女のように扱って店に通わせる手段だが、かといって無料で彼に会えるわけではないので、本当の恋人ではないことは客の方も薄々気付いてはいる。でも彼女になる、という願いの一部が達成されているため、その関係を反故にして店に行くのをやめることはできない。

やらず本営」はさらに高度な技で、セックスをしないのにもかかわらず、「お前は俺の彼女だよ」と言い張って店に呼ぶことで、客は身体も満たされなければ実際の彼女であるかどうか非常に疑わしい状況に不安を抱きながらも、「でも彼女って言ってくれてるし」と、達成されている願いの一部をよりどころにしてやはり店に通い、一時の幸福な時間を噛み締める。

 対して「友営枕」とか「色恋枕」というのは、「付き合う」という言葉は発さずに、でもセックスはして、「好き」とは口にしながら、相手も自分のことを好きかもしれないという一縷の望みを客に抱かせ、セックスしているのは私だけかもしれないという望みもついでに抱かせ、店に通わせることを言う。
巧みなホストであれば、営業終了後にちょこっとホテルに寄って、あるいは客の家に寄ってセックスしている間だけは、明らかにこの人は私のことを好きだし私に欲情している、と勘違いさせられるので、客はやはり止めどきを逃して、それでもオンリーワンになる、本当の彼女になる、というまだ達成されていない願いがあるために、その欠けた部分をなんとか埋めていこうと何故かやはり店に通ってお金を使い、本物の彼女からどんどん遠ざかっていく。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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