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鈴木涼美「×××な男~酒と泪とオトコと美学」
○○○な女〜オンナはそれを我慢している」のアンサーソングともいうべき新連載は、気鋭の文筆家・鈴木涼美によるオンナ目線の男性論。とはいえ、ここで取り上げるのは現代を生きる「今」のオトコたちの生態事情。かつてはもてはやされた男性像が、かつては相手にもされなかった男性キャラが、令和の今、どんな進化・退化・変遷を遂げているのか? 冴え渡る涼美節・男性論に乞うご期待!

ニッポンの不倫男〜罪悪感がないにもほどがある権利主張の話

私の叔母は小学校のときに桜の枝を折って、担任の教師に「戦争に負けた日本には、世界に誇れるものはもう富士山と桜しかないんですよ!」と叱られて以来、富士山と桜を非常に愛でているのだが、私は先日、米国育ちの台湾人の男に「日本のイメージというと不倫がとてもカジュアルで、若い学生の女の子たちがみんな風俗で働いている」と言われて以来、何ともいえない気持ちになっている。

日本が誇る3F、富士山・不倫・風俗

ちなみにその男は「だから日本の女の子と付き合うとしたら、もしプロステテュートの過去があってもオーバーリアクトせずに、ちゃんと彼女が過去と向き合っているなら許す腹づもりでいるんだ。僕はオープンマインデッドだから、過去は過去、きちんと話して乗り越えるさ」とおおらかな笑顔を作った後に、「まぁでも、流石の僕も、もしガールフレンドがポルノ女優をやってたなんて聞いたら正気で乗り越えようなんていう気にはとてもなれないけどね」と爽やかに言っていたので、全米が泣く前に白目剥いて固まって全涼美が死んだ。

何はともあれ、そんな、富士山・不倫・風俗という3つのFと、年に1週間ほど咲き誇るチェリーブロッサムの国ニッポンでは当然、不倫男が富士山のように堂々と猛々しく誇らしく生きている。
それは米国在住のベンチャーキャピタリスト(って何?)から見れば、富士山や桜やNARUTOやパフィーを超えるほどのナニコレ珍百景なのだろうが、世界には一夫多妻の国もあるし、歴史をひっくり返せば中国の宮廷の側室たちなんて日本の大奥が可愛く見えるほどだったらしいし、別にとりたてて騒ぐ必要も恥じる必要もない。
サザエさんに見られるような日本の理想的な家族からは、仕事の話とセクシャルな香りは一切排除されているわけで、仕事と性を外で処理して家に持ち込まない文化が美徳とされてきたのは間違いない。
横槍を入れてくる西洋キリスト教的価値観に惑わされ、既存価値観との間で混乱しながら芸能人の不倫をまるで性犯罪のように扱うのもよし、不倫再興を睨んでパパ活ビジネスの新しいビジネスモデルを模索するもよしだ。

日本の誇れる3Fは尊いのだけれども
日本の誇れる3Fは尊いのだけれども

というわけで私は不倫に対して台湾VCがポルノ女優に対して持っているほどのジャッジメンタルな気分を持ち合わせているわけではない。
早めに結婚して人妻となった友人たちは、相手の家柄や結婚への道のりばかり意識していたあの頃よりもずっとずっと美しい笑顔で純粋で綺麗な恋愛を不倫にて楽しんでいるようだし、いい条件で店を選ぶにはややほうれい線がきつくなってきた風俗嬢の友人たちは既婚男性から個別にお金を引き出せるアプリを歓迎しているようだし、面倒な男が嫌いで意外に性欲の強いキャリア女性の友人は既婚男性のアレをああして満足しているようだし、イマイチ自宅に居場所のない男性はそんな女たちにアレをああされて満足しているようだし、AVでは相変わらず美熟女の人妻ものは鉄板の検索数を誇る。
割と最大多数の最大幸福に近いような気もする。

しかし最大多数の最大幸福を実現しようとすると、どこかの歪みでできた穴に大量の汚水が流れ出し、たまたま穴の下にいるやつが泥水ガブガブ飲みながら耐えている、というのはあらゆる社会にいえることでもある。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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