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鈴木涼美「×××な男~酒と泪とオトコと美学」
○○○な女〜オンナはそれを我慢している」のアンサーソングともいうべき新連載は、気鋭の文筆家・鈴木涼美によるオンナ目線の男性論。とはいえ、ここで取り上げるのは現代を生きる「今」のオトコたちの生態事情。かつてはもてはやされた男性像が、かつては相手にもされなかった男性キャラが、令和の今、どんな進化・退化・変遷を遂げているのか? 冴え渡る涼美節・男性論に乞うご期待!

元カレ男〜東大入試に落ちた人が東大の説明してるみたいな話

30代になって、女同士で話している時にそれぞれの元カレの話がポジティブな文脈で出る頻度が圧倒的に高くなったと思う。

要は、若い時というのは元カレなんていうものは基本的に同情を引くか笑いをとるかの持ちネタとして、「前の彼氏なんてスキヤキの肉入れるタイミングが気に入らないっていう理由でコップ投げるようなヤツだったんだけど」とか、「元カレと初めてデートした時、レザーの下にタンクトップ着てきてマジで気持ち悪かった」とかいう話題に出るくらいだったし、せいぜい人の相談に乗る時に「うちの前の彼氏もそうだったけど、浮気って一回したら絶対直らないから許せないなら別れた方がいいよ」と経験則として例示するための道具でしかなかった。

それがなぜか30代も後半になると元カレ評価に変化が訪れる

それは熱が冷めた後には発熱中のことは綺麗に忘れる、という女の特徴を考えると当然で、これまで付き合った男の顔ひとりひとりを思い浮かべながら、どれに対しても「なんであんなに好きだったんだろう?」と本気で疑問に思うことが多いし、元カレが困っていても不幸になっていても死んでも、思わず駆け寄っていきたくなるようなことは皆無だったし、どちらかというとザマアくらいに思ってそうっとしておいた。

それがなぜか30代の階段を踊り場まで登り終えたあたりで、「今思えばさ、あの元カレが一番いい男だったよ、あれと別れたのが間違いだった」とか、「普通に考えて、あの元カレと結婚してれば幸せだったなと思うんだよ」とかいう文脈で人の元カレの名前を聞くようになる。
当然、数年前には「そもそもアイツ、カフェのお会計とかも時々割り勘にするような奴だった」とか「車でエグザイルのアツシのソロ曲聞かされてマジ引いた」とか好き放題言われていたのと同じ名前を、である。

30代後半で急速にあがる、捨てた男たちの株
30代後半で急速にあがる、捨てた男たちの株

理由はわかっている。

まず第一に、若い時というのは女は基本的に存在していて若くて女であるというだけで結構モテるし、男なんてみんな一瞬いい男だと思ってもよくよく知ってみるとダサい生き物なので、「絶対こいつよりいい男がいる」とか「この人も悪くはないけど最高ではない」とか何様なにさまな気持ちで別れるからだ。
そして当然、その後も色んな男と付き合ってみるのだけど、世の中にはそんなにいい男はいないし、どんな男であってもよくよく知ってみるとダサいというのを経験上知ってしまうし、顔の毛穴が大きくなって二の腕が太くなってモテなくなるし、あの男は私に手に入る男の中では相当いい方だったんじゃないか、と考えが改まるのだ。
スペックが低くなった今から最高値の男を探すよりも、自分が最高値だった時に付き合っていた男を掘り返す方が効率がいいという浅ましい考えがそこにある。
 
第二に、男を見る自分の基準が40歳を目前に急に変わるというのもある。
要は、20代の時は言葉にすることはあっても真剣に結婚するとか子供を産むとかいうことを考えるのは稀だし、よほど計算高くない限りそういった観点から男のことをみてはいない。

「この人とだったら結婚したい」とか、「実家が金持ちだから結婚したら超楽!」とか言うことはあってもあくまで夢想の域に過ぎず、実際は、今かっこよくて今金持ちで今都合がよい男がいいと思っている。
そして悪くないけど面白くはないとか、悪くないけどキュンキュンしないとか、悪くないけどちょっと冴えないとかいう理由で男をフっていく。

そうやってフった、面白くはないけど悪くない、キュンキュンしないけど悪くない、ちょっと冴えないけど悪くない男たちの株が、東京に疲れ、人生にも仕事にもおしゃれにも恋愛にも疲れた女たちの間で急速に上昇しだすのが多分今の季節。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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