よみタイ

鈴木涼美「×××な男~酒と泪とオトコと美学」
○○○な女〜オンナはそれを我慢している」のアンサーソングともいうべき新連載は、気鋭の文筆家・鈴木涼美によるオンナ目線の男性論。とはいえ、ここで取り上げるのは現代を生きる「今」のオトコたちの生態事情。かつてはもてはやされた男性像が、かつては相手にもされなかった男性キャラが、令和の今、どんな進化・退化・変遷を遂げているのか? 冴え渡る涼美節・男性論に乞うご期待!

非モテ医者系の男〜売り文句のしつこい量産型の武器は潰される話

友人の一人がとっても優しくてセックスもうまくてお金持ちで嬉しいことたくさん言ってくれて豪華なホテルにも連れていってくれるけど自分一人に絞ってくれる気はない、いわゆる好きとは言うけど付き合うとは言わない男と、ほぼ彼氏彼女だけど彼氏彼女ではない関係に陥り「凪のお暇」を観て「これ私の話? ねぇこれ私の話? 誰が書いたの? 誰かに喋った?」と共感を超えて疑心暗鬼になっていたり、別の友人が彼氏と大げんかして別れて周囲を巻き込んでやっぱりお互い好きすぎてあなたなしでは生きてはいけない!誰かに盗られるくらいならあなたを殺していいですか?好き!と言って復縁するという寸劇を二ヶ月に計7回上演したり、絶賛不倫中の人妻の友人がラブホテルに夫にもらった時計を忘れて後悔と自己嫌悪と焦りで顔面蒼白になっていたりするのを見ると、嗚呼偉大なるチャップリンよキートンよ、人はこうも喜劇を演じるのか、と思ってつくづく、自分は大恋愛中じゃなくてよかった、とは思う。

でも考えてみれば36歳でローンを組めるような身分保証も無ければ貯金も人に誇れるような過去もなく、オマケに恋愛感情すらなくなっているとこれは喜劇ではなくて本物の悲劇である。

本人が望むウリ1点で売り抜けたい男たち

というわけで、先日男と別れた友人が家に泊まりに来た時に思いつく限りのマッチングアプリに登録して、せめて世の中には結構いい男もいるしみんな恋愛をしたがっているし出会いなんていうのは死ぬほどあるのだ、という自己暗示をかけようと、一晩中多分1000人くらいの男の顔を見ていた。

ただ、私たちの世代からすると、インターネットの出会いといえば大まかに言うと私のようなジャンルの、私より5歳くらい年下の女子たちが「ホ別苺どうですか?」とか「サポ希望」とか送りあっているイメージなので、年上からライクがくれば「いくらくれるんだろう」年下からライクがくれば「いくらせびられるんだろう」という想像が先走ってしまうのと、なぜか登録直後から友人の方には有名企業会社員とか、都内で起業してますとか、会計士事務所とか、そういった面々からライクが来るのに、私のところには何故か怒涛のトラック運転手からのメッセージの嵐がきて(15年前のAV時代の写真使ったからかな? でもアプリで加工した盛ってる写真よりはそっちの方が真実と思うんだよな)、それが8割を締めていたのとで、イマイチ食指が動かない。動かないから延々と顔とプロフィールを見る。
そして悟る。

人のウリとは本人がそれで売り込みたい!と思っているところと別のところにあるということを。
そして1点のウリで売り抜けようとする男が結構いることを。

プロフィール文は男の自意識の陳列棚
プロフィール文は男の自意識の陳列棚

思い出すのは昨年ちょうどこんな夏が過ぎ風あざみの季節に外国育ちの日本人と、暴利で提供される土鍋で炊いた白米とその他のおかずを食べにいった時のこと。

小学校5年生から高校まで米国にいて大学から日本に戻って外資系メーカーの営業職をしていたその男は、やたらとインターナショナリティを前面に出してくる男だった。
私は正直彼が出張でシカゴに行ってそこでハイスクールバディと偶然バンプトインしたこととか、新卒で入ったトレイディングカンパニーで入社2日目にマイボスにかかってきた英語の電話に出たらあまりに英語が達者だから気に入られてしまったこととか、シンガポール駐在のときに変な訛りがついたせいで久しぶりにあった米国のマイメンにシングリッシュスピーカと言われたこととかに、特に興味はないのだけど、彼は終始そんなことを話してくる。

そこまではまだいいのだけど、私が彼のインターナショナリティな話をどうにか終わらせようと、ちょうどその時女性誌の依頼で書いていた、30代の女性が男の人のどんなところにグッとくるかというアンケート付きの原稿の話をしたところ、じゃあ私はどんなところにグッとくるのかという話になり、色々あるけど自分に見せている面以外の面を偶然見るとグッとくるかな、とありきたりの答えをしたのが今思えば運の尽きだった。

1 2 3

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

週間ランキング 今読まれているホットな記事