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鈴木涼美「×××な男~酒と泪とオトコと美学」

非モテ医者系の男〜売り文句のしつこい量産型の武器は潰される話

一つのことに秀でている、というのは憧れの対象であることに間違いない。
欧州のピアノコンクールで優勝しているとか、サッカー日本代表だとか、芸大油絵科の首席だとか。

褒めてほしいところと実際に褒められるところはしばしば一致しない

ただ、モテの場でそれだけを武器にするのであれば、一応その事項について県で一番くらいの成績を収めないとすぐ人とかぶるし超えられるので、その次の弾が入っていないとその場で絶命する。

褒めて欲しいところと自分が褒められたいところが一致しないのはよくある悩みで、私は一年365日朝から晩まで、誰か超かわいいねって言ってくれないかな、と思って生きているのだけど、文章が面白いねとか視点が独特だねとか言われることはあってもなかなか、目がくりっとしてキュートだね、とか、お肌プルプルで触りたくなっちゃうね、とかは言われない。これで「どうしても私は目がくりっとしてるねって言われたい!」というアピールを3時間もしていたら、相手は辟易とするだろう。

そして、金に目が眩むとか乳の谷間にやられる、というのはあくまで比喩表現であって意外とみんな総合評価で人を判断するので、そもそも1点を押し売りされても困るのだ。

漫画なんかでよく意地悪な女の子が美人でモテる女の子のことを影で「顔だけじゃんね」と言ったり、貧乏な男が「あんな金だけの男のどこがいいんだよ」と言ったりするが、人は、顔だけよくて乳が30センチほど下に垂れてて無教養で声がガスガスで髪がキシキシで空気も読まずに非常識でくわえ煙草で無遠慮な女は別に誰も好きではない。金持ちだけど口が臭くて顔がテカテカでセックスが下手でマザコンで鼻毛が出てる男を誰も好きではないのと一緒だ。
美人で、そこそこ性格もよくて、体臭に不快感がなく、そこそこの教養と家柄のある女のがいいに決まっている。

彼のように、一点、それも英会話なんていう、ある一定の水準を境に喋れるか喋れないか、という以外はそんなに高みの見せ場がない、しかも量産型の武器を、執拗に売り込まれても、こちらは別に就活生と対峙する面接官ではないので、せいぜい「はい、20ポイントプラスね、次―」となるだけで「採用!」とはならない。今時そんなんで就活だって「採用!」とはならないだろうけど。

すごいですねーは無料だし言ってはあげるけど…
すごいですねーは無料だし言ってはあげるけど…

そんな男の最終形は、ゼロ年代初頭の横浜のキャバクラでよく見かけた。
横浜のキャバクラというのは、東京に比べて業界人は少ないし、有名企業なんかも多くはない。

よって威張っているのは中小企業の社長と、今でいうと半グレ系というか昔でいうと闇金系と、輝く医師免許を持った男たちである。
中小企業の社長は、日頃あちこちに気を使ったストレスをわかりやすく金で威張って解消する人が多いのでまだいい。闇金系なんてもっとわかりやすくお金によって権力が行使できると思っているので客として会うには適している。

いかに2発目のアピールポイントを作るかに力を入れてほしい

そこで目立つのが一部の、「医者ということ以外に特に自慢がない医者」であった。

彼らからすると、どんなお仕事されてるんですか、と聞かれて、白い歯をキラーんとさせながら「医者です」というところが、本日のハイライト的になるので、そのハイライトをできるだけ引き延ばそうと、もったいぶってくる。
「お仕事帰りですか?」と聞いたら、「ああ、ちょっと寝てなくて」とか言ってきて、「あら忙しいんですね、朝早かったんですか」「ああ、うん、というか昨日帰ってないから」「あら、会社に泊まってたんですか?」「あ、うん、いや、会社っていうか」「お泊まりになることあるんですね」「いやー、あの当チョ、あ、これ言ったら職業バレちゃうか」「え、当直? あ、お医者様なんですか」「いやまぁ一応」「すごーーーい」というところまでが彼らの一番気持ちのいいところである。

そして彼ら、医者というところ以外に2発目以降の弾を用意してないので、会話は「インフルエンザの予防接種って効かないってほんとですか?」とか「あーお医者様なのにタバコ吸ってる! 医者の不養生」とか「人体解剖怖くなかったの?」とかいうことには意気揚々と答えが返ってくるが、それ以外の「私最近ネイルに凝ってて」とか「携帯電話ってどこのメーカー使ってますか」とか「映画観ますか」とかいう質問への対応力はクソほど低い。
会話に医者アピールができる箇所が少ないとどんどん小さくなるか機嫌が悪くなる。そして意外と金払いが悪い。

医者というのは少なくとも日本で、免許を持っているだけで会費の高いカードがなんでも作れるようになるくらいには崇められている選ばれし民だし、付き合っておくとヒルドイドを大量にくれたり予防接種を無料でやってくれたり親が癌になった時に相談できたりする、いい生き物ではあるけれど、それだって過度にアピールされたら冷笑を誘うわけであります。
これは医者や帰国子女に限らず、東大卒にも稀にいるタイプなので、是非とも東大生はいかに東大をアピールできるかの技術を磨かず、いかに東大以外の2発目のアピールポイントを作るかに力を入れてほしいと思う。

ちなみに無駄に大量に登録したマッチングアプリには、言葉少ないプロフィール欄の上の方に「speak Japanese and English」とか書いておいて、下の方に「あ、一応英語が喋れるので旅行のとき便利です」と書いているような人はそのタイプの可能性高いから踏まないように気をつけたほうがいいよ、というアドバイスと、全国のトラック野郎の間で一部のアプリが流行ってるらしいよ、というトリビアが言えるようになった以外に特に私に何かをもたらしてはくれなそうだったので、私はそっと退会方法を検索して「さよならトラック野郎たち」と呟きながらオンラインから去った。

よって私の2019年夏は、悲劇のまま幕を閉じつつある。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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