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鈴木涼美「×××な男~酒と泪とオトコと美学」

非モテ医者系の男〜売り文句のしつこい量産型の武器は潰される話

「え?例えば?」と聞く彼に、「え、だから完全にプライベートで出会った彼氏がいたとして、その彼と歩いているときに偶然彼の会社の後輩と遭遇して偉そうにアドバイスしてたり、仕事のかしこまった電話がかかってきたり、あるいは職場の先輩でちょっといいなと思ってた人が街で妹と歩いててすごくお兄ちゃんらしく振舞ってたりとか」と、私が答えるとやや食い気味に彼が「あーそういうことね、いわゆるギャップね、みんなそう言うよね、ギャップ萌えね、だとしたら俺は英語で話してるところ見られた時だろうなぁ、すずみちゃんにグッとこられるとしたら」と勝手に私のグッとポイントを指定してきたわけである。

誰が四六時中、シカゴのバディがとかトレイディングカンパニーのボスがとか言ってる男がイングリッシュを話したところでギャップを感じるんだ?と突っ込みたい気持ちを抑えつつせっかくの暴利の高級米を食べ、「あと一軒軽く行かない?」と言う、顔だけはめっちゃタイプなその男にホイホイついて行って、ダーツが二台ある店員が仲良しだというバーに入り、彼が「どうしても英語話せてかっこいいって言ってもらいたい男」であることを悟る。
ただ、ここからは状況が意外と彼に不利に働いて、彼が仲が良いという豪州人のバーテンはその日は休みで、カウンターの中にいたのは普通の日本人、もう一人いたのは日本語が流暢なイタリア人らしき店員。これでは彼が想定した、必然的に英語を話す状況は生まれない。

量産型の武器の威力は儚い
量産型の武器の威力は儚い

それでもめげずに彼はカウンターの隣に座ったインド人がそのイタリア人に英語で話すのを聞いて、やや割り込み気味に英語で入っていった。
インド人が私にも英語で話しかけてきたあたりで本来なら彼は通訳してくれたかったんだろう。
しかし私の性格は、顔が好みだというだけで鼻をぎゅっと伸ばしてあげられるほどよくもないしカウンターで横に座ってマジマジ見てみたらやっぱりそれほどタイプじゃないような気がしてきたので、普段の数倍の英国英語を結集し、丁寧に、インド人と話した。
どちらかというと英国寄りの英語を話すそのインド人のおじさんは彼ではなく私の英語、もしくは私のお乳か私のむちむちした太もも(タイのパタヤの娼婦に聞いたがインド人はデブ専が多い)がお気に召したようで、アメリカンでオーバーリアクションな彼を無視して私と仲良くなった。

それ以来、そのインターナショナリティボーイからは特に連絡はない。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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