よみタイ

鈴木涼美「×××な男~酒と泪とオトコと美学」

自称「卒業した」男〜おじさんのマウンティングが見苦しい話

それは当時新潟県知事だった米山氏が、いわゆるパパ活というか愛人ビジネスというか、そんなことをしている女子大生と交際サイトを通じて知り合い、お金を渡して男女の関係を続けていた、という報道がされた頃だった。
記者会見での米山さんの自信なさげな様子や、独身で東大のしかも医学部出身のエリートで弁護士で田舎者で冴えない顔、というスペックを見た、世の、やはり大して冴えてるわけでもないおじさん方が、「遊びを知らずに育ったから」「若いときモテたことないやつは」「遊び方も知らないのか」と謎のマウンティングをしだしたのである。

エラそうにいう卒業とやらはいったい何からの卒業なのか

私は何人かのおじさんのそんなぼやきを聞いたが、中でも片手にジントニックなんていう、合コンで私ビール飲めないんですという女子が頼みがちな酒を持って「同情はするけどね」と言った当時44歳の男とフローズンマルガリータくんの姿はぴったり重なる。

そしてミスタージントニックとフローズンマルガリータ伯爵は揃って、こういうことを言う。
俺は幸いすごい若い時にそういうの散々やって、卒業したから

要は、自分もかつて、色々な女に都合よく手を出して、クラブでナンパしたり合コンでその日に知り合った子を持ち帰ったり、付き合ってる彼女がいても平気で浮気相手の家に泊まったり、やりたい放題やってたが、そういう刹那的な刺激はもう飽きた、と、○○ちゃんをキープする男や米山元知事が今やっているような遊びは俺みたいなイケてる男はとっくに経験済みだ、と謎なマウントをとりだすのである。
俺はそういう遊びと無縁なわけではないが、女子ウケの悪いそういうおじさんたちと違って、今はそんなことはしていないいい男である、というアピールを添えて。

卒業資格なんて持ってないくせに
卒業資格なんて持ってないくせに

だいたいそういう男たちが持ち出すのは学生時代の遊びで、もう大人だしそんなのとっくにしていない、と言うのだけど、涼美の統計上、学生時代なんてモテるのは、小学生で大体人口の2%、大学生でもせいぜい1割くらいで、あとは男同士で盛り上がってちょっとナンパして合コンしてセックスして楽しかった、くらいが関の山、下手すりゃ童貞のままタバコ吸って海行ってパチンコして遊んだ気になっていただけなので、些か疑わしい。
さらに言うと、まぁ甘く見て学生時代と言いつつ、二十代でちょこちょこ女を抱いたのかもしれないが、二十代の大して冴えない男がいい女を次から次へと抱いたなんて言うのもやはり怪しくて、運よくたまに一ヶ月に3人とかにありついたことがある記憶を、まるで毎月起こったことのように記憶しているか、単に夢に見た光景を語っているかのどちらかというのが妥当な線だと思う。

そして何より、たとえ米山さんより若干男前で童貞喪失がそこそこ早くて、彼女いるのに浮気した経験があるとして、卒業って何なんだ。
何に入学して何をもって卒業資格を得たのだ、という問題がある。

卒業して一体何が変わるというのか、と尾崎も歌っていた。尾崎の言うように卒業とは支配からの卒業なのだとしたら、何の支配から卒業したのだろうか。
性欲の支配? モテたい願望の支配?
そんなものは40歳そこそこでは、まだまだお前たちを支配しているぞ。
支配の手が若干緩んだとしたら、それは遊び方を学んでそれが認められたとか一皮向けたということではなく、単に不摂生な生活による性欲減退である。

自称・卒業男に意外に見られる落第リピート

この卒業した俺、という名のスピーチが胡散臭いのは、大体マウントをとられる側が、社会的地位ではマウントをとっているということ、そしてこの度晴れてモテや女経験でマウントをとった側の誇るものは弁護士資格や東大の証書に比べて目に見えない上に、経験としても過去に置いてきたものとしているため、確かめようがないことが大きい。仕返しの仕方が、ものすごく漠然としているのだ。

何よりかにより、そして、それを自分と無縁ではなく経験済みとすることでマウントがとれると思っている時点で、複数の女経験や女遊び、女をたらす行為自体が、すごーく価値の高いものだと信じている節がある。
本当に卒業していたのだとしたら、学校時代に自分を縛り付けた校則なんて、今思えば馬鹿らしく何も誇れるものじゃないと気づくと思うけど。

つまりフローズンしたマルガリータなんていう水着の女子にしか似合わない飲み物片手に女遊びマウンティングをする、自称すでに卒業して今は女を大切にするいい男、という男は、あわよくばウワサ話に出てきた男のように今でも複数の女を都合よく抱いたり、いろんな女に言い寄られたりしたいという欲望を秘めたまま、落第を繰り返して何かの支配からは自由になっていない場合が多く、案の定、大して興味もない私に、俺の家来る?と聞いてきたので、私は「仕事が大詰めです」と言って帰りました。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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