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満員の日産スタジアムを求め続けた兵藤慎剛。その願いが叶った2013年ホーム最終戦への消えない想い

2013年11月30日、兵藤さんが常に呼びかけ、願い続けた超満員の日産スタジアムの風景。(写真/©J.LEAGUE)
2013年11月30日、兵藤さんが常に呼びかけ、願い続けた超満員の日産スタジアムの風景。(写真/©J.LEAGUE)

満員の日産スタジアムを願い続けた理由

 夏場に一時4位まで順位を落としたものの、すぐに勝ち点を積み上げて首位の座を奪回。9年ぶりのリーグ制覇がカウントダウンに入る。第32節、11月23日のアウェイ、ジュビロ磐田戦に1‐0で勝利してついに王手を掛ける。

 兵藤にはどうしても実現したいことがあった。それは日産スタジアムを満員にすること。機会があるたびに彼はファン・サポーターに呼び掛けていたが、これまでは優勝争いに絡めなかったこともあってなかなか実現しなかった。
 忘れもしない。ルーキー時代の2008シーズン開幕戦(3月8日、対浦和レッズ)、日産スタジアムには6万1246人の大観衆が集まった。ピッチから眺めたスタンドは、壮観だった。F・マリノスというクラブのポテンシャルだと思うことができた。

「僕はプロになって最初の試合でこの景色を見てしまっているので、満員にすることを目指さないといけないし、スタンダードになるところまで持っていきたいな、と。そんな思いが僕のなかにずっとありました」

 残り2試合のうちシーズン最後のホームゲームとなる11月30日、日産スタジアムでのアルビレックス新潟戦は、満員にするまたとない機会であった。兵藤をはじめ選手たちの、そしてクラブスタッフの呼び掛けや発信もあって、Jリーグ最多(当時)となる6万2632人の大観衆が集まった。
 目標としていた光景を目の前にして、心がたかぶったという。

「強くて、いいサッカーを提示できているときでしたから、いろんな人に観てもらって、満員の雰囲気も味わって〝日産スタジアムにまた行きたい〟と思ってもらえるようにしたい。そう考えていたら新潟戦で満員になって。感謝の気持ちでいっぱいでした」

 あとは優勝してみんなで喜ぶことだけ。
 3連勝中と調子を上げ、モチベーション高く向かってくるアルビレックスを相手に、序盤は手堅く入って前半をスコアレスで折り返した。だが後半27分にセットプレーから先制点を許すと、前掛かりになっていたアディショナルタイムには、カウンターを受けて2点目を奪われてしまう。超満員のスタンドが沈黙した。
 兵藤はため息交じりに振り返る。

「確かに試合自体は悪くはなかったんです。でも良くもなかった。ただ、このシーズンはそういう状態でも勝ってきていたのに、アルビレックスとの試合ではそれができなかった。満員にしてもらったスタジアムが一体となるスイッチを僕らが押せなかった。逆にファン・サポーターの方からも後日〝あのときはホーム感をつくれなくて申し訳なかった〟と言われたこともありました。お互いにそういう気持ちがあったんだなって。
 今思うと、もっと派手な感じというか、ピンチもいっぱいあるけどチャンスもいっぱいあるみたいな展開のほうがスタジアム全体にガッと火がついてスイッチを入れられたのかもしれない。いつものように普通にやっていけば勝てるだろうと思って戦ったのが、ひょっとしたら良くなかったのかな、と。あの試合は普通に戦っちゃダメだったのかもなって、後になって感じました。あそこで優勝を決められなかったのは、僕の現役生活のなかで一番、悔いとして残っています」

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新刊紹介

二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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