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【村井理子さん×ジェーン・スーさん『実母と義母』刊行記念特別対談 】 「親の顔」以外の父母のことがわからない~近くて遠い家族との過去、現在、未来

頼むから、ちゃんとしてくれ!

スー 村井家とウチ、どこか似てるんです。昭和の時代にああいう家庭で育つと私たちのようになるんだな、と(笑)。今だから思うのですが、家族の中で誰に問題があるかがはっきりわかってる子は、大人になってもそれほどこじらせない気がします。ウチは父親。村井家はお兄さま。私もですが、村井さんも、そのことをはっきりわかっていたんじゃないかな。

村井 兄です。わかってました。兄は幼いころからトラブルばかりで。中学時代は荒れに荒れて、高校は入学して1週間で自主退学するし、仕事もすぐやめてしまう。父は兄と顔を合わせれば怒鳴りつけて、兄も応戦して大喧嘩。それを母が泣きながら止めに入る、の毎日でした。私が19歳のとき父が亡くなったのですが、父の死後、兄は母にそれまで以上に依存して、いつもお金を無心してました。そして母は、言われた通り渡してしまう。兄と母がとにかくベッタリで、気持ち悪いほどでした。

スー ウチは父親。母が生きていた頃の父は一般的に言われる父親らしいことを全くしない人で、自分の好き勝手なことだけしてました。ただ、金銭的に困窮したことはなかったので、その点だけは感謝してますが、逆に言えばそれだけ。それ以外のことは一切してもらったことがない。母がいなかったら家族として機能しなかったと思います。だから、私が24歳のときに母が亡くなって父と二人にされたことは、本当につらかった。それまでは母を介してしか父との繋がりはなかったので、母が亡くなってから初めて、父と向き合わざるを得なくなって。で、父にいつも思うんです、「お願いだから、ちゃんとしてくれ!」と。

村井 わかる! 私もいつもそう思ってました。兄に対して。それから、兄をどこまでも依存させ続けた母に対しても。

ジェーン・スーさん
ジェーン・スーさん

スー 私の友人たちを見ても、家族の中で明らかにコイツが悪いとわかってる人は、どこかアッケラカンとしています。問題は多々あるけど、私はこの状態の中でやっていくんだと腹が括れている。だから、それほどこじらせない。

村井 たしかに。ある意味、アッケラカンとしてますね。ただ、「怒り」は消えないですよ。

スー そうなんです。私も、父を見てると、ほんと腹立たしいし、情けなくて。今はようやく喧嘩せずに関わる距離感で接することができるようになったけど、「怒り」は消えない。たぶん父の死後も消えないんじゃないかな。

村井 消えなかったですよ、私は。母も兄も亡くなって、後悔とか複雑な思いはたくさんあるけど、「怒り」は消えない。

スー 家族の中に「ちゃんとしてない人間」がいることを、どうやって自分の中で腑に落とすか。私自身、そのために生きてるようなところがあります。毎回、傷ついて怒って、それでも何とか自分の中で腹落ちさせていく作業を、延々と繰り返してる。ああ、村井さんもそうだったんだ……と思いました。

村井 兄は昔から母に依存してましたけど、父の死後、依存度に拍車がかかりました。昔、兄がTOTOの便器を売っていたことがあるのですが、たった数年の間に、家中のトイレ……といっても2つですが、何度も新しい便器に替わるんです。母の日記には「もうトイレなんかいらない」って。それでも兄に頼まれると替えちゃう。ほかにも「アルファードの支払いがきつい」とも書いてありました。

スー なんで高級車を買っちゃうんだろ。

村井 お金ないのに、なんでアルファード? ですよ。兄は身の丈に合わないことをするのが大好きで、兄の元妻によると、アルファードを2台も持ってたらしいです。出どころはすべて母。それでも母は、たった一回、兄にうなぎを食べさせてもらったことが嬉しくて、日記に「タカがうなぎをご馳走してくれた。こんなおいしいものは初めて」って書いてる。私が母のためにどれだけ駆けずり回っても、一文字も日記に出てこないのに。当時、私は京都で大学生活を送っていましたが、「理子は大丈夫よね」の一言で仕送りはゼロでした。私は毎日、授業以外は朝から晩までアルバイトしても生活が苦しくて、全然大丈夫じゃなかったんですけどね。母は父が亡くなった後、恋人を作って、その人にもずいぶん貢いでたから、さらに許せなかった。嫌な思いが膨らんでいくだけなので、大学時代は私からは連絡を絶っていました。

スー ああ、もう! 「ちゃんとしろ!」ですよね。

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新刊紹介

ジェーン・スー

1973年、東京生まれ東京育ちの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。
TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、ポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」のパーソナリティとして活躍中。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で第31回講談社エッセイ賞を受賞。著書に『生きるとか死ぬとか父親とか』『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』『これでもいいのだ』『私がオバさんになったよ』『ひとまず上出来』『きれいになりたい気がしてきた』『おつかれ、今日の私。』『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』、のほか『女に生まれてモヤってる!』『女らしさは誰のため?』(共著)など多数。

X:@janesu112

村井理子

1970年、静岡県生まれ。翻訳家、エッセイスト。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術』『ハリー、大きな幸せ』『家族』『はやく一人になりたい!』『村井さんちの生活』 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』『ブッシュ妄言録』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』『本を読んだら散歩に行こう』『ふたご母戦記』など。主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖』『エデュケーション』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』『消えた冒険家』『射精責任』など。

X:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

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