2023.9.19
二村ヒトシに影響を受けた人はなぜみんな気持ち悪いのか?【新井英樹×二村ヒトシ×麻知子×山下素童座談会(後編)】
ゴールデン街を舞台にした私小説として反響を集めるなか、刊行を記念したトークイベントが行われました。
ゲストは、漫画家の新井英樹さん、AV監督の二村ヒトシさん、ゴールデン街『マチュカバー』オーナーの麻知子さん。ゴールデン街で交流のある面々が、山下さんの最新作について、酒を片手に感想を語り合います。
後編では、二村さんが登場する章を引き合いに、非モテとモテの違いを4人が熱弁。さらに、山下さんが本を出版してモテるようになった理由や、恋愛とセックスの本質とはなにか、出版後の山下さんの近況など、盛況に終わった座談会をお届けします。
☆前編はこちらから。
構成/佐藤隼秀
山下「二村ヒトシに影響を受けた人は総じて気持ち悪い」
山下 自著の第2章では、「二村ヒトシはどうしてキモチワルいのにモテるんだろう」というタイトルで、二村さんについて書いたんです。小説のモデルとなってみて、二村さんは読後どのような感想を抱きましたか?
二村 山下さんと初めて会った、彼の最初の本の出版イベントでの僕の恥ずかしいふるまいとかね、5年も前のことなのに、まあ細部まで見事に再現されてますね…(笑)。小説を読んでて自分と似たイヤな奴が出てくると共感性羞恥をくらうものですけど、この本に出てくるのは、なにしろ俺だからね。じつにつらい。
新井 この章は全部本当の話なんだよね。なんで山下さんは、二村さんのことをなかばディスりながら書こうと思ったの?(笑)
山下 ディスるというか、注意喚起したいという感覚です(笑)
いま僕は31歳なんですけど、大学生の頃って二村さんのモテ本が流行っていたんですよ。当時、人文学系の読書会に行くと、よく『すべてはモテるためである』とか『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』が取り上げられてて。恋愛工学のアンチテーゼとして話題になっていたし、ちゃんと人を人として見るような人文哲学系の要素も入り込んでいるので、かなり好感をもって読まれていたと思うんです。
でも、実際にお会いしたら気持ち悪くて(笑) 気持ち悪いというのは、自己顕示欲や自意識が強くて、どうしようもないぐらいに自分が注目されたいというような意味です。『すべてはモテるためである』の中で、二村さんは「気持ち悪い人は自意識が強すぎるから」と断言しているんですけど、実際に会ってみたら本人もまさにそんな感じだった。非モテに向けた指南本を出版して売れたことで、どんどん自分がモテるようになるマッチポンプなんだと、この世の不条理を嘆きたい気持ちになったんです。
二村 ディスられているのか褒められているのか、よくわからなくなってきた(笑)
山下 で、僕が言いたいのは、二村さんのモテ本を読んで、“自分がモテるようになったと思うのは勘違いだ”ということ。
僕がゴールデン街で店番している時も、この二村さんの章を読んでくれた男性客がよく来てくれるんです。彼らの多くは『二村さんって気持ち悪いっすよね、めっちゃわかります!』って共感してくる人が多いのですが、皆なぜか総じて気持ち悪い(笑)
それと同時に、二村さんを神格化している人も一定数いて、モテ本に書いてあることを吸収すれば女の子にモテると信じ込んでいる。でも実際に、女の子を口説くとほぼほぼ失敗していくんですよ。その人たちって、割と二村さんを崇拝する信者のようになっていて、でもそれは幻想だと伝えたいんです。
著作の内容と、作者の人柄を結びつけるのは良くない。それは文章に対する過剰な期待であって、著者への依存でしかないんですよ。あまり良いことではないなと思っていて。
二村 自分で言うのもなんだけど、俺もそう思う(笑) この小説でも、2章で山下さんは僕にそそのかされたのか、3章で風俗嬢の女の子とセックスするけど、最終的には音信不通になってしまう。
それと同じかどうかはわからないけど、僕の本を読みさえすればセックスまで辿り着けて、しかも女の人を喜ばせられると思い込んで事故を起こす人がいっぱい出てきてるわけでしょ。
山下 僕はこの本で、二村さんのことを「気持ち悪さを残したままモテている」と表現したんです。ただ実際は、二村さんの気持ち悪い部分だけが乗り移った“二村チルドレン”が、次々に生まれているんです。