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漫画家・新井英樹が感嘆!「山下素童の馬鹿正直な不器用さは俺と同じ」【新井英樹×二村ヒトシ×麻知子×山下素童座談会(前編)】

7月26日に発売された山下素童さんの最新刊『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』
ゴールデン街を舞台にした私小説として反響を集めるなか、刊行を記念したトークイベントが行われました。
ゲストは、漫画家の新井英樹さん、AV監督の二村ヒトシさん、ゴールデン街『マチュカバー』オーナーの麻知子さん。ゴールデン街で交流のある面々が、山下さんの最新作について、酒を片手に感想を語り合います。
さらに話は、作品のスタンスや執筆秘話、男性陣が考える童貞っぽさや、麻知子さんが考えるモテの定義にも発展。真面目な創作論から、くだけた与太話まで、自由気ままな座談会をお届けします。

構成/佐藤隼秀

「山下くんは、不器用で実直な人」

山下 みなさん今日はお忙しい中ありがとうございます。

二村 新井さんは月刊コミックビーム連載中の『SPUNK!』の今月の締切が迫る中、お越しいただきまして…。

新井 かなりやばいですね(笑) さっきもトークイベントに登壇する旨をツイートしたんですが、あれは編集者に向けての“忙しいアピール”です(笑)

二村 山下くんが新井さんの感想を聞きたいっていうから。

山下 新井さんとはマチュカバーで同席してからのファンで。今回のイベントに向けて、改めて新井さんの作品をほぼ全部読んできました。

二村 僕らは3人ともゴールデン街にある『マチュカバー』というお店の常連で。山下くんの新刊もゴールデン街を舞台にしているから、この面々で新刊について話していこうというわけです。

麻知子 私、この本読んでから、山下くんの印象だいぶ変わったなと。

山下 と、言いますと?

麻知子 山下くんって、店で飲んでる時もそこまで喋る方ではないから、なに考えてるんだろうって思っててんね。でもこの本読んだら、女の子との距離の取り方とか、なんのためにセックスするのかとか、いじらしいぐらいに色々考え込んでる子なんやなあって。

新井 そう、俺も読んでて思ったの! 山下くんって、女の子と歩く速度とか、お尻を握られたいフェチの女性とセックスする時の力加減とか、いちいちそんな細かいことで悩んでるんだって。考えすぎてて、逆に「山下さんって不器用な人なんだろうな」って思った。

麻知子 不器用だし、それは実直とも言えるよね。描写もめっちゃ細かいし。

誰のためにセックスするかなんて、普通は考えない

新井 俺も不器用と言うか、馬鹿正直なタイプだから、すごく親近感湧いたんだよ。
漫画家でも、いわゆるエンタメとして、読者にわかりやすく快感やカタルシスを届けるように作品を描く人も多い。要は、うまくパッケージングして、『こうすれば読者にウケるだろう』と計算して描ける人。そういうタイプの漫画家を、俺は勝手に“ズルむけ”って呼んでるんだけどさ(笑)
でも俺は“ズルむけ”にはなれない。ある大手の編集者も「気持ち良いもの作って適当に金儲けりゃいいんですよ」って言ってて、俺も笑って聞いてたけど、でもやっぱできないんだよね。自分が思っていないことは描けないし、自分の気持ちに嘘ついてまで作品を描きたくない。だから俺はガッツリ包茎の童貞みたいなもんだよ(笑)
その愚直な童貞っぽさを、山下さんの小説にも感じたんだよね。作中に「自分のためだけでもなく、人のためだけでもないセックスとはなんなのか」っていう、肝になるフレーズがあるじゃないですか。でも誰のためにセックスするかなんて、普通は考えない。作中に登場する女の子も「セックスする理由がわかんない」と言っているけど、それが当たり前だし、そもそも理由なんかなくても良いはず。
でも山下くんは、悩まなくて良いことに悩んでいる様子とか、些細なことで悩んでいる理由を描写しながら、あちこちへ迂回するように“セックスとはなんなのか”と核心に近づいていく。その過程を辿れるのがこの本の醍醐味だし、山下さんらしさだと思うんです。
俺が漫画を描く動機も同じだなと。自分のためだけに描くわけではないし、他人のためだけでもない。じゃあなんのために描いているのか。その理由がわからないからこそ、自分に問うてせめぎ合いながら描いている。この逃れられない性みたいな感覚は、山下さんにもあるんじゃないかなと。

山下 すごくありがたい感想ですね。僕自身も自分のこと不器用だなと思ってて。この本を出すきっかけとなったウェブ連載があるんですけど、編集の稲葉さんからは当初3000~4000字程度で原稿をお願いされていたんです。でも一話目から15000字になってしまって。いまの新井さんの話を聞きながら思ったのは、悩まなくても良いことに悩んだ結果ここまで長くなったのかなと。

新井 めちゃくちゃ長くなってますね(笑)

山下 でも新井さんは、エンターテイメントやSFを描いているじゃないですか。たとえ“ズルむけ”じゃないとしても、いろんなモチーフや題材と掛け合わせて作品を仕上げている器用さがあると思うんです。
僕は今のところ、自分が体験したことのない世界を書けるイメージがあまりなくて。この小説でいうと、1話と2話は100%ゴールデン街で起きたことがベースで、4話も8割方は事実。3話目は半分ぐらいはフィクションを混ぜてますが、それはゴールデン街で働いてる風俗嬢なので、プライバシーに配慮した結果フィクションを混ぜただけ。自発的に書いたわけではないんです。そういう意味では、新井さんのほうが“ズルむけ”に近いのかもしれないです。

二村 新井さんの『SCATTER』なんか、実話だとしたらヤバいもんね(笑)

山下 ただ同時に、僕の新刊と『SCATTER』って似てるとも思います。ジャンルも展開も作品のテイストも違うけど、なんのためにセックスするのかというテーマが根底になっている。

二村 新井さん自身も、かなり童貞を拗らせていますよね。「果たしてこれがセックスなのか」を突き詰めた結果『SCATTER』はあそこまでスケールの大きい奇想天外な作品になってしまったという(笑)

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山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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