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二村ヒトシに影響を受けた人はなぜみんな気持ち悪いのか?【新井英樹×二村ヒトシ×麻知子×山下素童座談会(後編)】

ファンからちやほやされたら増長するもの?

二村 ところで、この本のきっかけとなるウェブ連載を始めてから山下さんは爆モテしてって聞いてますけど、実際はどうなの?

山下 先ほどの“二村チルドレン”の話もそうですが、読者が作者に幻想を抱いて、距離感が近くなってしまう人は一定数いますね。こちらとしては起こった出来事を、ただ自分の言葉で書き綴っているだけなのに、作者=偉いみたいな権威として向こうが捉えて、勝手に恋愛感情を抱いてくる読者もいる。
それは、一般的に見れば“モテている”状態と言えるかもしれませんが、一方で“自分が消費されている”感覚もある。もちろん褒められたり、ちやほやされてモテるのは気分が良いですが、それが果たしてどう捉えられているのか考えると怖い気もしますね。

麻知子 ちなみに新井さんは、ファンにちやほやされたりするけど増長できないタイプですよね。

新井 俺って、30~50歳までの20年間作品が全然表に出てこなかったから、自分のファンですって言われるのが遅かったわけ。もし30歳前後でファンにちやほやされてたら増長した嫌な奴になっていたと思うけど、もう50歳すぎると褒められる許容量がそこまであんまり大きくないんだよね。それに天狗になっている自分が恥ずかしいというか。

麻知子 そうよね。二村さんは逆じゃないですか?

二村 逆なんですよ。なにしろ褒められるのが大好きなの。誇大妄想だと思われるかもしれませんが、今から20年くらい前は日本中の受け身好き・痴女好き・逆ハーレム好きの男性が、僕が監督したAVでオナニーしていた時代がありましたから。

新井 それは増長せざるを得ないでしょう(笑)

二村 その後に恋愛の本を出版したら、今度はそれを読んで感動したと言ってくれる女性が大量に現れ……。自分の妄想を拡張した映像で男性を勃起させてる一方で、恋愛こじらせマスターのように信奉され、我ながら客観的に見ると気持ち悪い仕事をね、してきました。

麻知子 でも私は、二村さんの“気持ち悪さ”って嫌悪感ではなくて、なんかいじらしくて可愛らしい感じだと思うんですよ。二村さんみたいに、もう充分モテてきて名声もあるのに、まだモテることについて真剣に考えているんだって。

二村 山下さんも連載を始めて、本を出版して、素人童貞だった頃よりはるかにモテるようになった。でも多くの人にモテることで満たされたかと言うと、そうじゃないわけだよね。

突然、血で書かれたファンレターが……

新井 さっき山下くんが、“作者は読者に幻想を抱かれがち”と言うことを話していたけど、俺も結構やられるんだよね。要するに、書いてる漫画の主人公=新井英樹みたいに読まれちゃうことが多くて。
俺びっくりしたのが、『宮本から君へ』のアシスタントと初対面の時、「新井さんが、宮本さんみたいな人だったら嫌だなとドキドキしてたんです」って言われたの。え、同業者にもそう思われてんのかと思ったね。
それで連載を続けていく中で、主人公がヒロインと付き合ったけどすぐ捨てられちゃうシーンを描いたのよ。それを読んだ祖母が、わざわざ「英樹ちゃんも悪い女に騙されて悲しい思いしてるかもしれないけど頑張って」って手紙を送ってきたの(笑)
少し冷静に考えれば、主人公以外のキャラも作者が考えているし、主人公の言動が作品のテーマや核心に直結すると言ったら全く違うはず。それでも「主人公=新井英樹」と錯覚されてしまうわけだから、もう主人公と自分が重ねて読まれるのは永遠のテーマですね。

山下 特に新井さんの漫画は、そう思われがちかもしれないですね、フィクションでSFなんだけど、むき出しの人間臭さがあるというか。

新井 以前に一度、血で書かれた手紙が送られてたり、警察経由の「この小包の中に爆弾が入ってます」って書かれたものが届いたこともあるよ(笑)

二村 それはもう、熱量があって過激な作風に、ファンが過剰に刺激を受けちゃうわけでしょう。

山下 ただ、読者が作者に幻想を抱いてしまう気持ちは僕もわかるんです。と言うのも事実を基にしたエッセイのような私小説を書いたことで、自分が体験したことじゃないと書けないと実感したんです。
だからこそ他人の作品を読む時に「これは実体験なのか」と考えながら読んだり、二村さんのモテ本を読み返した時は二村さんの顔が思い浮かんだり。ゴールデン街では、お店番をしている人が役者だったらその人が出演している演劇を観に行くし、作家だったらその本を買いに行くし、知り合った人きっかけでコンテンツに入っていく人も多いですね。

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山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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