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【猫沢エミさん×野村真季さん『猫沢家の一族』刊行記念特別対談 】どんなにいびつな家族でも、笑って、許して、生きていく

占い師の助言を無視し続け、交通事故で意識不明に

野村 『猫と生きる。』では、占い師さんのアドバイスをエミさんが無視した顛末が書かれていましたよね。今日の話の流れで、この件もお聞きしたかったんです。

猫沢 20代の時、占い師さんに「すごく危ない手相をしてる人だ」「これは絶対よくないから、自分のお師匠さんのところに行ってくれ」って言われて。でも、心の隙間に入り込んで勧誘してくる宗教のようなものかと思って、そのままにしていたんです。それから1年くらいしてまた同じ場所で会った時に「はっ! 去年の今ぐらいに来た、すごい手相の子」って。「師匠のところに行った?」って聞かれたけど、「行ってないです」って言ったら、「もう間に合わないかもしれない」ってひと言。「何が間に合わないんだ」と思いながらもまた占ってもらったら、「頼むから本当に行ってくれ」って、お師匠さんの名刺と、その方の「ひとし」さんというお名前が書かれた名刺をもらったんです。
その帰り、原宿駅の券売機から出てきたお釣りの10円玉に、きれいな字で「仁」って書いてあったんですよ。ちょっと待てと、原宿駅で考え込んで。出てきた10円玉に人の名前が書いてあるっていうこと自体がすごく少ないから。

野村 少ないっていうか、ないですよね(笑)。

猫沢 ここまで来ると大体の人はその師匠のところに行くと思うんです。だけど私は「これは死神か何かに挑まれてるな」と思ったので、売られたケンカは買ってやると思って、その10円を使って、まずキオスクでガムを買って。その場で噛んで捨てて、「この先何があっても正面切って生きていく」「一生占いはやらずに全部自分で決めていく」って決意表明をしたわけです。でもそれから数ヶ月後に交通事故。

野村 非常に大きな交通事故で。一命を取り留められたけれども、大変だったんですよね。

猫沢 10代の無免許の男の子が運転する車が、赤信号を完全に無視してブレーキを踏まずに、私と友人が乗るタクシーの横っ腹に突っ込んできて。タクシーは横滑りして、その後1回横転して、商店街に突っ込んで車体が二つに割れたんです。
私が座っている側から車が近づいてきて、ハッと気が付いた時から本当にコマ送りで、現実の映像の上に今までの人生が走馬灯ように流れて。その最後に、あの占い師さんが出てきて、「だから言ったのに」ってひと言。「ああ、でもしょうがないよな。こういうこともあるんだな」って思いながら、意識を失いました。
翌日、搬送された病院で、同室に入院していたおばあちゃまがすごい臭いオナラをして、その匂いで目が覚めたんです。なんか臭いと思って起きたら、生きてる、みたいな。オナラの匂いで目が覚めた時に「勝った」って思いましたね。

野村 エミさんが目覚めて「賭けに勝った」と思ったというところに、自分の人生は自分が決めるという強さを感じます。私だったら迷わず占い師さんのところに駆け込んじゃうと思って。

猫沢 そうですよね。だけど、私は自分の人生を誰かに手渡すっていうことが絶対に嫌なので、いいときも、悪いときも、全て決定は自分でするっていうモットーがあるんです。友達に話したり、誰かに相談してアドバイスをもらったりすることもあるけど、肝心なときには自分で決めないと。自分で決めさえすれば、失敗しても成功しても私の選択だから。人が決めたもので何かをやると、その人のせいになってしまうんですよね。そういうことを人のせいにしてはいけないと思うし、自分の人生だから、生きようが、死のうが、覚悟を決めて生きたい。そういう考え方ですね。

猫沢さんの著作は全て読んでいるという野村真季さん。
猫沢さんの著作は全て読んでいるという野村真季さん。

ボンボンで破天荒な父、子どもたちに街金で借金させる母

野村 『猫沢家の一族』の中で、お父さまがヅラをフリスビーのように投げる“ヅラスビー”や、ヅラで股間を隠すという話が好きです。お父さま、カバーの家族写真を拝見すると、とっても目鼻立ちが整っていらっしゃるけれど、やっぱり頭にいささかの不自然さはありますよね。

猫沢 そうですね。カバーについては、まさかこの写真になると思っていなくて、びっくりしました。私の放心した顔と、ひしゃげた弟の顔。これ、お宮参りの記念写真だから弟が主役なのに、両親は自分たちのベストショットを選んだわけです。写真館の台紙が付いていて、和紙を開いた瞬間にこれが現れて、なんじゃこりゃって思いました。

野村 エミさん半目ですものね。

猫沢 半目ですね。まさに、あの家にいた頃の私の心境をこの顔が表しているんですけれど。

野村 お父さま、お母さまのスケール感にまず驚きます。お父さまが要はボンボン育ち、お母さまは一般的な家庭から嫁いできたけれど、豪快な金遣いの猫沢家の中で変わっていき、規格外な猫沢家が出来上がっていく。

猫沢 そうですね。母はある意味、私たち3きょうだいの拠りどころではあったんですね。バブルが崩壊して、猫沢家が大没落する最初のきっかけがくるまでは、お店を手伝ったり、子どもたちを育てたりする、いわゆる普通の主婦で。でもバブル崩壊後、父はボンボンで現実逃避するし、おばあちゃんが亡くなったときには隠し借金が見つかったりして。母はそれを自分一人で何とかしようとしたんですけど、全く才覚がなくて、どんどん闇のほうに引きずり込まれて。
最終的に子どもに向かって「街金行ってこい」と。信じられます? 子どもには、「お金に困っても街金だけには行くなよ」って諭すのが親だと思うんですよね。
ところがうちの母親の場合は、まず電話かかってきて、「あんた、まだきれいなの?」って言われるんですよ。怖ッと思って。「どういう意味で?」って聞いたら、「街金みたいなの、まだ手を付けてないかな~と思って」みたいな感じで。「そんなの借りるわけないじゃん」って言ったら、「そうなんだ、よかった。じゃあ200万借りてきて」みたいな。
私のLINEに3きょうだいのグループがあるんですけど、母から借金の強要があった場合、日付を入れて、どんな状況だったかというのを共有するために作ったんです。そうして、お互いを守り合っていたんですね。下の弟の“ムーチョ”なんかは、借金問題が原因で、5年間親と縁を切って行方不明になったり、そういうシリアスな面もありながら。

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新刊紹介

猫沢エミ

ミュージシャン、文筆家。2002年に渡仏、07年までパリに住んだのち帰国。07年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー≪BONZOUR JAPON≫の編集長を務める。超実践型フランス語教室≪にゃんフラ≫主宰。著書に『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』『猫と生きる。』『イオビエ』など。
2022年2月に2匹の猫とともにふたたび渡仏、パリに居を構える。

Instagram:@necozawaemi

野村真季

のむら・まさき
テレビ朝日アナウンサー。神奈川県出身。東京女子大学現代文化学部卒業。1998年テレビ朝日に入社。「ANNニュース」や「有吉クイズ」などを担当。猫沢エミ氏の著書の愛読者で、プライベートでも親交がある。

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