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『本を読んだら散歩に行こう』出版記念対談! 中島京子×村井理子「谷ありすぎ山だらけ!? ドラマあふれる五十代の日常」

『本を読んだら散歩に行こう』出版記念対談! 中島京子×村井理子「谷ありすぎ山だらけ!? ドラマあふれる五十代の日常」

これからの仕事、生活、老後に備えて

中島 息子さんたちの成長につれて、またいろいろなことが変わるのでしょうね。

村井 手が離れるのももうすぐですね。私は五年前の心臓弁膜症の手術以来、自分を大事にするようになったし、自分に投資するようになりました。病院から帰った瞬間、「私はこんなに過ごしにくいところに住んでいたんだ」と気づいたんです。筋肉が落ちたからだにとって、椅子は硬いしベッドも最悪。それらだけでなく、パソコンなど仕事まわりのものもいいヤツに買い替えたのは、無理せず今までと同じくらい仕事をしていこうと思ったら、モノに投資するしかないと理解したから。50歳を過ぎたら、今までのように勢いに頼っていてはダメだと思ったんです。

中島 私も「座って立つ」ができないと仕事にならないから、からだのメンテナンスをしなきゃと考えるようになりましたね。朝起き上がれないかもという恐怖から、どんなに眠くても寝る前にストレッチポールに乗るし。座りっぱなしだとお腹の筋肉が弱くなって姿勢が悪くなるからスクワットを、とか。

村井 私もからだが重力に抗えなくて、気がついたらすごくゆがんでいるときがあります。バーバママみたいに(笑)。そういえば最近、大村崑さんの『崑ちゃん90歳 今が一番、健康です!』を読んだんです。「90歳の崑さんを幸せにしている筋トレってどんなもの?」と思って。読んでみたらとにかく崑さんが楽しそうで、「90歳でもこんなに変われる」ということに心を動かされましたね。

中島 私は今、実家をリフォーム中なんです。90歳になる母と同居するつもりで。あと20年くらいはそこに住んで仕事をするだろうから、からだに負担をかけずに快適に暮らしたいし、しっかり仕事ができる環境を作りたい。そう思って、リフォームの計画を立てていきました。私はこの家で最期を迎えるのかなとか、私には子どもがいないからのちのちこの家はどうなるんだろうとか、この年齢になるとそんなことも考えますね。

村井 私は四人家族でしたが、父が32年前に亡くなり、母は7年前に、兄も2年前に亡くなりました。家族の死についてはこの本でも触れていますが、兄がアパートの一室で突然亡くなったあと、私が荷物であふれかえった部屋の片付けをしたんです。そのあたりから死生観がずいぶん変わりましたね。すごく死が身近になって、いつ何が起きてもおかしくないと思うようになりました。といっても死を恐れるのではなく、カッコつけて生きなくていいとわかって、いろいろなことが書きやすくなった。今は日常のこと、病気や子育てのこと、自分のこれからや老いのことを、そのときどきの素直な気持ちで書いていけたらいいな、と思っています。問題は、翻訳の仕事をどこまでやれるか。やっていきたいけれどかなり体力がいるので、どうしようかなと考えているところです。

中島 私は最近『オリーブの実るころ』という短編集を出しましたが、六編を一冊にまとめてみたら、五十枚くらいの中に長い人生を書いたものが多いことに気がつきました。『小さいおうち』みたいに、私は以前から過去に思いが向きがちでしたが、長く生きていると自分の中の追憶空間みたいなものがどんどん大きくなっていく。だから自分ではない人のことを書いても、その人の追憶空間やその人が生きた長い時間を考えたくなるのかもしれません。ただ過去に思いが向きがちということは、現実や若い子たちの流行に関心が向かないということ。そういうものがわからないおばあさんにならないとも限らないと思うと、それもちょっと……。物書きとして、これからどういうところにアンテナを張るべきか考えなきゃと思っているところです。

村井 おばあさんになった自分はまだ想像できませんが、私は「高齢者にとってかわいいは正義だ」と思っているんです。中身もですが、服装だけでもちゃんとしていて愛らしく見えるのは大事だな、と。あと、おじいちゃんにはピンクを着せるといい。顔が明るく見えるし、とっつきやすそうに見えるから。

中島 確かに白髪にも似合いそう。以前、ご自身のお寺でグループホームを運営されている釈徹宗さんにお話をうかがったことがありますが、釈さんによるとお世話され上手な人っているんですって。何をしてもらっても「わあ、うれしい」と素直に言う人がそうで、反対にお世話され下手な人は「申し訳ない」「自分でできます」などと言ってしまう。「はーい、やってください」と楽に言える人のほうが幸せですよと釈さんはおっしゃっていましたが、自分のことを考えると……どうなるんでしょう。

村井 やっぱり威張らないことも大事ですよね。

中島 威張っているとお世話が難しいかもしれませんね。

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村井理子

1970年、静岡県生まれ。翻訳家、エッセイスト。主な著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術』『ハリー、大きな幸せ』『家族』『はやく一人になりたい!』『村井さんちの生活』 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』『ブッシュ妄言録』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』『本を読んだら散歩に行こう』『ふたご母戦記』『ある翻訳家の取り憑かれた日常』『義父母の介護』など。主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖』『エデュケーション』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』『消えた冒険家』『ラストコールの殺人鬼』『射精責任』など。

무라이 리코
1970년, 시즈오카현 출생. 번역가, 에세이스트. 주요 저서로 『오빠가 죽었다』 『낯선 여자가 매일 집에 온다』 『필요 없지만 고마워: 항상 무언가에 쫓기고, 누군가를 위해 지쳐있는 우리를 구원하는 기술』 『하리, 커다란 행복』 『가족』 『빨리 혼자가 되고 싶어!』 『무라이 씨 집의 생활』 『무라이 씨 집의 꽉꽉 채운 오븐구이』 『부시 망언록』 『갱년기 장애인 줄 알았는데 중병이었던 이야기』 『책 읽고 나서 산책 가자』 『쌍둥이 엄마 분투기』 『어느 번역가의 홀린 듯한 일상』 『시부모 간병』 등이 있다. 주요 번역서로는 『요리가 자연스러워지는 쿠킹 클래스』 『어둠 속으로 사라진 골든 스테이트 킬러』 『메이드의 수첩』 『배움의 발견』 『포식자: 전 미국을 경악하게 한, 잠복하는 연쇄 살인마』 『사라진 모험가』 『라스트 콜의 살인마』 『사정 책임』 등이 있다.

X:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

中島京子

なかじま・きょうこ●1964年東京生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。早稲田国際日本語学校、出版社勤務を経て1996年にインターンシップ・プログラムスで渡米。翌年帰国、フリーライターとなる。2003年『FUTON』で小説家デビュー。2010年『小さいおうち』で第143回直木三十五賞受賞。14年『妻が椎茸だったころ』で第42回泉鏡花文学賞受賞。15年『かたづの!』で第3回河合隼雄物語賞・第4回歴史時代作家クラブ作品賞・第28回柴田錬三郎賞をそれぞれ受賞、『長いお別れ』で第10回中央公論文芸賞・第5回日本医療小説大賞をそれぞれ受賞、2020年『夢見る帝国図書館』で第30回紫式部文学賞を受賞、2022年『ムーンライト・イン』『やさしい猫』で第72回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞、2022年『やさしい猫』で第56回吉川英治文学賞受賞。
著書に、小説『イトウの恋』『平成大家族』『ゴースト』『キッドの運命』『オリーブの実るころ』、エッセイ『ワンダーランドに卒業はない』などがある。

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