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『本を読んだら散歩に行こう』出版記念対談! 中島京子×村井理子「谷ありすぎ山だらけ!? ドラマあふれる五十代の日常」

『本を読んだら散歩に行こう』出版記念対談! 中島京子×村井理子「谷ありすぎ山だらけ!? ドラマあふれる五十代の日常」

認知症の母親に認識されない男性の落胆

村井 ウチの夫は義母が変わってしまったことにショックを受けて、なかなかそれをぬぐいきれないんです。溺愛した息子なのに、義母は私に「あのおっさん誰?」と聞いてくる。「あのおっさんはあなたの息子ですよ」と答えたことが何度もありました。

中島 夫、かわいそう!

村井 頑張って義母の家に行くんですけど、夫は彼女に「なんでやねん」「何言うてんねん」と返してしまう。この本の「夫の両親に贈った大型テレビの行く末」にもそういう場面が出てきますが、当たりが強いんです。それを見ていると夫も義父母もかわいそうで。だから夫に「もうあなたは来なくていい」と言って、お金だけ出してもらうようにしました。義父も介護が必要で、最近はヘルパーさんに思いがけない角度からクレームをつけるなど、「もしかしたら認知症の始まり?」と心配している状態です。ふたりの介護の手配などはすべて私の仕事になりましたが、おかげで家庭内での私の地位が爆上がりしましたね(笑)。

中島 なるほどね(笑)。今のお話を聞いて、『長いお別れ』の取材をいろいろ受けたときのことを思い出しました。ちょっと驚いたのですが、取材者が男性の場合、「母親が自分を忘れてしまうんじゃないか」ということを気にされる方がすごく多かったんです。私の感覚だと、自分の子どもを認識しなくなるのは認知症の初期に割と起こってしまうこと。私も父に「それであなたは誰の娘だっけ?」と言われましたが、「何言ってんの、お父さんの娘じゃない」と返しました。そんなにショックを受けずに漫才みたいなやりとりをしましたが、男性は「自分を忘れる」ということが大きなポイントみたいです。

村井 私はもう何十回も忘れられていますよ。自分の母が認知症になって忘れられたとしても、傷つかないと思います。男性は自分の存在を全否定されたかのように悲しむけれど。

中島 女性がケアの中心になることが多いので、お世話が日常だからかもしれませんね。「あら、また始まった」という感じで。

村井 でも、忘れるのと同じ回数だけ思い出すんですよね。今日忘れても明日思い出したり、一瞬だけ思い出したり。

中島 ウチの父は、わかっていないのに調子を合わせるのが上手でした。特にたまにやってくる人に。話し好きの女友だちが遊びに来て「変わってないわー。病気なんかじゃないわよ」と言ったことがありましたが、父は「ふん、ふん、なるほど」とうなずいてただけ(笑)。上手に自己演出するから、たまにやってくる人はどこがおかしいのかわからないみたい。

村井 本当に上手にごまかしますよね。義母が車の免許を更新できたのは、それがうまかったせいもあると思います。彼女にとって今一番の恐怖は、ごまかすのが難しい三か月に一回の認知症の検査。100引く7の計算とか、それに向けて全力で頑張っていますが、自分をキープする練習にもなればいいなと思っています。

中島 村井さんの双子の息子さんは、義理のご両親に介護が必要になって何か変化はありましたか。

村井 息子たちは今16歳ですが、最初は変わってしまった祖父母に抵抗があったみたいです。でも今はヘルパーさんと同じような動きをしますね。多分見て学んだのだと思います。

中島 それはすごくいいことですね。

村井 そうですね。私もよかったなと思います。息子たちだけではなくて、我が家では犬も介護に参加しつつあるんですよ。

中島 ハリーですね。

村井 ラブラドール・レトリバーのハリーです。義母がウチに来たときは、彼女がストーブに手をつかないようにその前に座って見張っていたり。

中島 えらいわ!

村井 大型犬だから存在感があるし、安心感も与える。老人には結構いいと思います。義母は毎回犬の名前を間違えますけど(笑)。

村井理子氏。初対面の中島京子さんとの対談前は緊張気味だった。
村井理子氏。初対面の中島京子さんとの対談前は緊張気味だった。
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村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な連載に「村井さんちの生活」(新潮社「Webでも考える人」)、「犬(きみ)がいるから」(亜紀書房「あき地」)。主な著書に『兄の終い』『全員悪人』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。主な訳書に『サカナ・レッスン』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。
『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』が、9月に文庫化予定!

ツイッター:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

中島京子

なかじま・きょうこ●1964年東京生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。早稲田国際日本語学校、出版社勤務を経て1996年にインターンシップ・プログラムスで渡米。翌年帰国、フリーライターとなる。2003年『FUTON』で小説家デビュー。2010年『小さいおうち』で第143回直木三十五賞受賞。14年『妻が椎茸だったころ』で第42回泉鏡花文学賞受賞。15年『かたづの!』で第3回河合隼雄物語賞・第4回歴史時代作家クラブ作品賞・第28回柴田錬三郎賞をそれぞれ受賞、『長いお別れ』で第10回中央公論文芸賞・第5回日本医療小説大賞をそれぞれ受賞、2020年『夢見る帝国図書館』で第30回紫式部文学賞を受賞、2022年『ムーンライト・イン』『やさしい猫』で第72回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞、2022年『やさしい猫』で第56回吉川英治文学賞受賞。
著書に、小説『イトウの恋』『平成大家族』『ゴースト』『キッドの運命』『オリーブの実るころ』、エッセイ『ワンダーランドに卒業はない』などがある。

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