2022.7.29
『本を読んだら散歩に行こう』出版記念対談! 中島京子×村井理子「谷ありすぎ山だらけ!? ドラマあふれる五十代の日常」
義母と仲良くなれたきっかけは認知症
中島 『本を読んだら散歩に行こう』を読んで、いろいろと感じることがありました。本文に「四十代と五十代はなぜこうも違うのか!?」と書かれていたように、村井さんよりちょっと年上の私はそれを痛感しているし、義理のお母様の老いの姿にもぐっとくるものがあって。「私も長く生きちゃったな。もしかしたらそろそろ“老人”のカテゴリーに入りつつある?」と思い始めたところだったんです。
村井 私も義母にそう遠くない自分を重ねることがありますが、正直に言って好奇心のほうが強いですね。老いていくとき人間はどのように変わっていくのか。それを間近で見ていると興味が尽きないんです。20年くらい前の私だったら、義母が認知症になったことを悪夢と思うかもしれません。でも、今の私は目の前にいるすごく困った人に手を差し伸べている感じで、義理の親だから世話をしなくてはとか、そういうことはあまり関係ないんです。
中島 「ご多分に漏れず私も義母と折り合いが悪く」と書いていらっしゃいましたね。
村井 私からすればいじめられていました(笑)。でもいろいろな葛藤を経て、今は親友みたいな感じです。認知症が絡むと、かつての敵対した感情が消えてこんなふうに付き合えるようになるなんてと、新鮮な驚きがありますね。
中島 お義母様がいろいろなことを忘れちゃったから、ということですか?
村井 そうですね。義母は今まで培ってきた常識や人間関係を全部忘れて、少女みたいな素のヨウコちゃん(義母のお名前が洋子さん)になっている。明るくて面白いこのヨウコちゃんなら、同じ女性として一対一で付き合えるという感じです。
中島 いいお話ですね。私も実の父の認知症があって『長いお別れ』という小説を書きましたが、介護の中心は元気だった母で、私は相談を受ける感じでした。認知症って、本当に興味が尽きない病気ですよね。ひとりひとり病状が違うし、何を言い出すやらわからない。「面白いと言ってはいけない」という人もいるでしょうが、正直とても面白い。私の場合は父と仲が悪いということはなかったけれど、昔の人だから気難しかったり機嫌が悪くなったりというタイプだったのですが、認知症になって「男なら」「父として」という部分がなくなって、付き合いやすくなりました。子どもにもやさしくなりましたね。しっかりしていたときは、「威厳のあるじいさんであらねばならぬ」という気持ちがあったと思いますが、幼稚園で子どもたちが遊ぶ姿をじーっと見ていたり。動物もすごく好きになって、「お父さん、本当はこんなだったんだ」と思いました。
村井 本来の姿に戻っちゃう感じですよね。ただ、何を言い出すかわからないからハラハラしちゃう。ウチの義母は完全に女子高生になっているので、デイサービスへの送迎をしてくれるお兄さんを「カッコいいのよ!」と言い、私に「なんであの人は私の家を知っているんだと思う?」と聞いてくる(笑)。かなり好きみたいです。
中島 人によって戻る時期が違うようですね。女性の場合は、嫁入り前の状態で止まっちゃう人が多いとか。