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【加藤直人×藤井太洋 メタバース徹底対談】起業したい人がフィクションを書くべき理由

小説と起業のインスピレーション

――藤井さんはソフトウェア開発のエンジニアとしての経験を経て作家として活躍されています。一方、加藤さんはかつて小説をお書きになったことがあり、今はIT企業を経営されています。小説を書くという経験は加藤さんのお仕事に影響を与えていますか。

加藤 アマチュアとして小説を書いていただけですが、確実に影響はあると思います。何のために起業したかというと、未来をつくろうという意識があったからなんです。僕だけではなく起業家にはそういう人が多いと思います。お金を稼ぎたいというだけで起業する人もいますけど、多くの人は「こういう未来をつくりたい」という志みたいなものがあるんじゃないでしょうか。じゃあ、どんな未来を思い描くのかというときに、フィクションはインスピレーションの源泉になると思います。しかも、その自分が考える未来を言葉にしないといけません。ビジョンを言語化し多くの人に伝える際に、言葉を使う小説は大きなヒントになりますね。
 特にこのメタバース領域は、かなり先の未来じゃないかと言われがちなところなので、小説や映画で描かれていると具体的に思い浮かべやすいですし、こういう未来がありえるんだと伝えやすくなりますね。実際にシリコンバレーのビッグテックの創業者たちはSF好きが多いですし。

藤井 原稿用紙一枚ぐらいでもいいので、フィクションをちょっと書いてみるということを、起業家の方や起業を考えている方にオススメしているんです。
 日記みたいなものでも構わないんですけど、それを架空の設定でお話にしてみる。それってすごくいい思考のトレーニングになるんですよ。物語るという体験は本当に人を変えるというか、自分の認識を変えてくれます。短いものならどの年代の方でも気軽に取り組めますしね。

加藤 それはいいですね。ちなみに藤井さんはもともと小説を書かれたり、書きたいと思われていたんですか。

藤井 いや、書いていなかったし、書こうとも思ってなかったんです。きっかけは東日本大震災ですね。原発事故があってこの国の人たちの科学的なものの見方や報道の仕方に疑問を持ったんです。読者を怖がらせたり、不安がらせたりするのではなく、もっと別のコミュニケーションの方法がないだろうか。そう考えて小説にしてみたら、と思ったんです。

加藤 小説だから、フィクションだから伝えられることがあるということですね。藤井さんは小説の中でスタートアップやIT企業に関して描写されていますけどリアルで生々しいですよね。取材はよくなさっているんですか。

藤井 取材はしてないですね。自分が体験したことがもとになっています。僕が体験していたのは10年ほど前なので、加藤さんのような若い起業家に生々しく感じてもらえているのは光栄です。最近は日本でも若い世代の起業家が増えてきましたよね。スタートアップという言葉が一般的になって、テック系だけじゃなくて社会活動に関わる人たちの間でも使われるようになってきました。

加藤 この10年間で日本国内だけでもスタートアップへの投資額は10倍近くになってきています。たしか10年前は1千億円を超えていなかったのが、昨年度は8千億円ぐらいまで増えていて、会社の数もすごく増えています。中国と比較すると見劣りはしますが、確実に伸びていますね。『メタバース さよならアトムの時代』は、メタバース関連ビジネスで起業を考えている人を励ましたいというのも執筆動機の一つでした。

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新刊紹介

藤井太洋

ふじい・たいよう
1971年奄美大島生まれ。2012年『Gene Mapper ‐core‐』を電子書籍で個人出版し、大きな話題となる。2014年『オービタル・クラウド』で日本SF大賞を、2019年『ハロー・ワールド』で吉川英治文学新人賞を受賞。著書に『ビッグデータ・コネクト』『東京の子』『ワン・モア・ヌーク』などがある。

Twitter@t_trace

加藤直人

かとう・なおと
1988年大阪府生まれ。京都大学理学部にて宇宙論と量子物性論を研究。京都大学大学院理学研究科修士課程中退後、スマホゲームを開発しながら約3年間のひきこもり生活を過ごす。2015年にスタートアップ「クラスター」を起業。2017年、数千人規模のイベントを開催することのできるVRプラットフォーム「cluster」を公開。『ForbesJAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出。

Twitter@c_c_kato

(写真:長谷川健太郎)

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