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カレーを語る者の横顔は、メロい。──文筆家ひらりさが読む『教養としてのカレー』

「カレー愛」がこれでもかと詰め込まれている

このように本の内容がシンプルにとっても面白いのですが……、メタな視点でさらにレコメンドを加えましょう。

この本が最高なところは「一つのものにどっぷりとハマっているクレイジーな人間の考えていることをのぞける」ところにあります。オタク女子集団「劇団雌猫」として長年、何かを愛し、時間やお金を投じる人々(つまり、オタク)の生態に密着してきた、私、ひらりさ。本書を読んであらためて、「愛するものについて語る人」はなぜこんなにもメロいのか、という思いを噛み締めました。つまり、著者の清水さんのことです。

彼を知ったのは、2020年頃。もともとエスニック料理全般が好きで情報を追いかけるなか、その界隈にいる人たちの「オタク」ぶりに圧倒されて、ウォッチするようになったのがきっかけです。

南インド料理店「エリックサウス」の総料理長・稲田俊輔さんや、noteで愛に溢れた「スパイス料理食レポ」を通算1500以上更新しているじょいっこさん……。すごい、やばい。二次元やアイドル界隈のオタクを山ほど見てきた私からしても、「なんか……尋常じゃないこだわりを抱いた、クレイジーな求道者が……ここにいるぞ……!」と思わされた“沼”がありました。それが、「カレー」です。

稲田俊輔さんが「フード・サイコパス」(食べ物を愛しすぎて、『美味しい・美味しくない』といった基準や常識を良い意味で超越してしまった人たち)という概念を提唱していますが、私からすると、その中でも「カレー・サイコパス」が特にクレイジーに思えたんですね。

そうしてカレーをあちこち食べに行ったり、面白いカレー発信者をフォローしたり、自分でもスパイスカレーの本を買ってカレーを作ってみたりしていた頃出会ったのが……、当時「カレー哲学」を名乗っていた清水さんと、彼が主宰していたシェアハウス「カレーシェアハウス」だったのです。

住人同士でスパイスをシェアし、作ったカレーをシェアし、日夜「カレーとは何か?」を考え続けるコミュニティ、カレーシェアハウス。意味はわかるが、意味がわからない!!! 前述のように「オタク」が大好きな私は、カレーを愛する住人たちの語らいのパッションと、彼らの作るカレーの美味しさにすっかり夢中に。何度かシェアハウスにお邪魔したり、いっしょにインドのお祭り「ホーリー」を再現してカラーパウダーまみれになったり、ポップアップイベントで美味しいカレーをご馳走になったりしました。清水さんが京都大学での研究の道へと旅立つ直前には、お茶の水の南インド料理屋「GOND」で送別ごはんもご一緒しました。食べたのはもちろん、カレー!(GONDの海老のガーリックレモンバターマサラ、びっくりするほど黄色くてクリーミーで美味しくて、大好き!)

カレーシェアハウスの風景(撮影:ひらりさ)
カレーシェアハウスの風景(撮影:ひらりさ)

本書には、教養、哲学だけでなく、清水さんの「カレー愛」がこれでもかと詰め込まれています。

「カレーの方向性による玉ねぎの色分けガイド」「カレーの適温」などという発想は、学術的観点というよりも、「カレー愛」ゆえに飛び出したパートでしょう。幅広いレシピ本やカレーにまつわる調理法を紹介して読者の「作りたい」ことを促すだけでなく、目隠しをしてミールスを手食した話など、「食べる」際の概念を解き放つ話、さらには食べたカレーをどのように言語化するかという「伝える」際の話まで。

ここから導かれる小さな結論は、やっぱり「情報はうまい」ということです。五感という区分は便利ですが、実際の食事は複数の感覚が入り混じった総合芸術です。視覚からの情報も、触覚からの手応えも、私たちの「味」の一部です。さらに言えば、知ることによって味は変わります。食材の背景や調理法の理屈、地域の文脈を知るほど、舌は細かい差異を見つけやすくなり、皿の中で起きていることが高い解像度で見えてきます。(『教養としてのカレー』p.192)

お分かりでしょうか。この本の隠された狙いは……「みんなカレーをもっと美味しく食べ、より楽しくゆたかに生きる世界」の実現なのです。

カレーについて語るものの横顔は、メロい。
そしてその知識を聞くうちに世界の解像度が上がり、今後の人生で食べるカレーが美味しくなってくる。

一石二鳥の本書で「カレー感覚」を磨けば、あなたもきっとメロくなることでしょう。

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●2500年前にブッダはどんなカレーを食べた?
●麻婆豆腐はカレーなのか?
●明治初期のカレーのレシピを再現するとどんな味?
●モダン・インド料理とは何か?
●なぜ面倒くさい男はスパイスカレーを作る?……etc

南アジアの食文化と現代インド料理を研究対象とし、「カレー哲学 @philosophycurry」名義でも活動する清水氏が、歴史・地理・文化・科学など様々な角度からカレーを語りつくす。

ソニーでの勤務を経て京大大学院に進学し、インド各地でフィールドワークを重ねる、ブレイク必至のユニークな著者による、唯一無二のカレー本!

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新刊紹介

ひらりさ

文筆家。1989年東京生まれ。オタク女子ユニット「劇団雌猫」のメンバーとして活動を開始後、オタク文化、BL、美意識、消費などに関するエッセイやインタビュー、レビューを執筆する。著書に『沼で溺れてみたけれど』『それでも女をやっていく』『まだまだ大人になれません』など。

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