よみタイ

息子に見えている母の顔

息子に見えている母の顔

 その後、二人での夕飯もなんだか話がはずまない。大人げないのはわかってるけど、さすがに私も楽しい気分じゃないし、息子は息子でどうもこちらと距離を置いている様子。
 そう、そうなのだ。よく考えてみれば「お尻発言」の時の息子はいつも、ふざけて笑っている感じではない。冗談ではなく、私の顔を本気で気持ち悪がっているような……。
 おいおい、だとしたら、それこそ、マジでやばいでしょ。そんなに母親の顔を嫌う幼児ってなによ。ダメだ泣きたくなってきた。
 
 その夜は結局、寝かしつけるまで息子とギクシャクし続けてしまった。
 さすがに気が重くて眠れず、いつもは待たない旦那の帰りを深夜まで待った。どうせ笑い飛ばされるだろうけど、これまでの件をあらいざらいぶちまけ、愚痴をこぼすためだ。
 ただ意外にも、旦那の反応は神妙なものだった。
「ごめん。隠してたけど、これ」
 なんだか青ざめた顔で、自分のスマホの画像を見せてくる。この前、遊園地に家族で行った時の写真だ。表示されていたのは、私と息子のツーショット。それを見た瞬間、思わずスマホを落としそうになった。
 
 私の顔が、のっぺらぼうになっている。
 いや違う、ぎゅうっと絞られたように歪んでいるのだ。
 目も鼻も口も、異様なまでに奥へひっぱられ、中心に集まっている。
 うずまきのような、ねじれた顔面。
 夫は黙ったまま、震える指を画面に置き、次々と画像をスライドさせていく。
 その日写された、どの私も、どの私も、同じ顔をしていた。

1日5分の恐怖体験、いかがでしたか?
『日めくり怪談』は毎日読んでもひと夏楽しめる、全62話を掲載。
詳細はこちらから。

7月の『日めくり怪談』特集一覧
7月2日 夜道を歩く女性の二人組が向かう先
7月4日 設置されては撤去されるブランコの秘密
7月6日 クラスメイトの机に置かれた手紙
7月9日 誰も来ないはずの男子トイレで目にしたもの
7月13日 息子に見えている母の顔
7月15日 内線電話から聞こえてくる声
7月19日 祖母に禁じられた遊び
7月22日 僕にだけ聞こえてくる音
7月27日 この子は大人になる前に死ぬから
7月30日 隙間から入り込もうとするもの
1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

新刊紹介

吉田悠軌

よしだ・ゆうき
1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。実話怪談の取材および収集調査をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。
『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』『現代怪談考』『新宿怪談』『中央線怪談』など著書多数。

Xアカウント @yoshidakaityou

週間ランキング 今読まれているホットな記事

  1. 真夜中のパリから、夜明けの東京へ

    自分はこの先、ずっと悲しい物語の主人公でいなければならないのだろうか【猫沢エミ×小林孝延・往復書簡8】

  2. 真夜中のパリから、夜明けの東京へ

    動物パートナーを喪って「親が死ぬよりも哀しかった」【猫沢エミ×小林孝延・往復書簡9】

  3. かとうゆうか「育ちの良い人だけが知らないこと」

    甘い言葉で誘い搾取? 海外出稼ぎのリアル【育ちの良い人だけが知らないこと 第4回】

  4. 新刊 : 石沢麻依
    ティツィアーノ、フェルメール、ボッティチェリ、カラヴァッジョ、ゴヤ、ボス、ベラスケスetc. 美術研究を重ねる芥川賞作家による西洋絵画案内。

    饒舌な名画たち 西洋絵画を読み解く11の視点

  5. 真夜中のパリから、夜明けの東京へ

    出会って20年……今、それぞれの喪失を経て言葉を交わすということ 【猫沢エミ×小林孝延・往復書簡1】

  6. 伊藤弘了「感想迷子のための映画入門」

    岩井俊二『Love Letter』のヒロインが一人二役である理由 ――あるいは「そっくり」であることの甘美な残酷さ

  7. 真夜中のパリから、夜明けの東京へ

    死を「準備」して受け入れてしまったことへの違和感と後悔【猫沢エミ×小林孝延・往復書簡2】

  8. 中村憲剛対談「思考のパス交換」

    【中村憲剛×一力遼対談 前編】囲碁とサッカー、王者の思考の共通点は、俯瞰の目と“点より線”で長く見ていく重要さ

  9. 新刊 : 爪切男
    美容と健康と結婚と!? 前代未聞の「おじさん美容エッセイ」

    午前三時の化粧水

  10. 真夜中のパリから、夜明けの東京へ

    緩和ケア病棟で妻と過ごした、別れの日までの「いつもの日常」【猫沢エミ×小林孝延・往復書簡4】

  1. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    依存しては捨てられ……男に絶望した私がレズ風俗で見つけた「生きる理由」【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第5話】

  2. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    普段は厳しい女性上司を演じているけど……SM専門女性用風俗で見つけた「本当の私」【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第4話】

  3. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    女性用風俗に通う女性たちの心のうちを描くコミック新連載【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第1話前編】

  4. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    同世代の男にはもう懲りたと思っていたけど、新人セラピストの彼に出会って…【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第1話後編】

  5. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    容姿も仕事も平均以下……劣等感に苦しむ私が女風セラピストの〝沼〟にはまるまで【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第2話前編】

  6. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    30代独身女性が女風を利用して気づいた「一番大切にするべきなのは…」【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第2話後編】

  7. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    レスと離婚……私はまだ〝女〟なの? それを確かめたくて女風へ【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第3話】

  8. 上田惣子「体重減・筋肉増のおばあさんになる「あすけん」式 人生最後のダイエット」

    不健康なまま長生きしないために 第10回 ダイエット開始から変化した心と体

  9. 野原広子「もう一度、君の声が聞けたなら」

    妻がそばにいることが、あたりまえだと思ってた 第2話 涙が出ない

  10. 野原広子「もう一度、君の声が聞けたなら」

    妻が逝った。オレ、もう笑えないかもしれない 第1話 さよなら、タマちゃん