2021.7.13
息子に見えている母の顔
その後、二人での夕飯もなんだか話がはずまない。大人げないのはわかってるけど、さすがに私も楽しい気分じゃないし、息子は息子でどうもこちらと距離を置いている様子。
そう、そうなのだ。よく考えてみれば「お尻発言」の時の息子はいつも、ふざけて笑っている感じではない。冗談ではなく、私の顔を本気で気持ち悪がっているような……。
おいおい、だとしたら、それこそ、マジでやばいでしょ。そんなに母親の顔を嫌う幼児ってなによ。ダメだ泣きたくなってきた。
その夜は結局、寝かしつけるまで息子とギクシャクし続けてしまった。
さすがに気が重くて眠れず、いつもは待たない旦那の帰りを深夜まで待った。どうせ笑い飛ばされるだろうけど、これまでの件をあらいざらいぶちまけ、愚痴をこぼすためだ。
ただ意外にも、旦那の反応は神妙なものだった。
「ごめん。隠してたけど、これ」
なんだか青ざめた顔で、自分のスマホの画像を見せてくる。この前、遊園地に家族で行った時の写真だ。表示されていたのは、私と息子のツーショット。それを見た瞬間、思わずスマホを落としそうになった。
私の顔が、のっぺらぼうになっている。
いや違う、ぎゅうっと絞られたように歪んでいるのだ。
目も鼻も口も、異様なまでに奥へひっぱられ、中心に集まっている。
うずまきのような、ねじれた顔面。
夫は黙ったまま、震える指を画面に置き、次々と画像をスライドさせていく。
その日写された、どの私も、どの私も、同じ顔をしていた。
1日5分の恐怖体験、いかがでしたか?
『日めくり怪談』は毎日読んでもひと夏楽しめる、全62話を掲載。
詳細はこちらから。
7月4日 設置されては撤去されるブランコの秘密
7月6日 クラスメイトの机に置かれた手紙
7月9日 誰も来ないはずの男子トイレで目にしたもの
7月13日 息子に見えている母の顔
7月15日 内線電話から聞こえてくる声
7月19日 祖母に禁じられた遊び
7月22日 僕にだけ聞こえてくる音
7月27日 この子は大人になる前に死ぬから
7月30日 隙間から入り込もうとするもの