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Twitterで〈刺さる〉小説を書く方法【麻布競馬場×新庄耕 創作対談】

小説は誰に向けて書かれているのか

麻布 新庄さんの本もバズるのに向いてる一冊なんですよ。140字のTwitterで本の紹介をするには書評にするか、抜き出すしかない。新庄さんの作品は抜き出すのに最適なんです。140字にしたときの文章の濃さがあるから。
『狭小邸宅』はbotがありますよね。あのアカウントの中の人は不動産屋さんで、その方と知り合いでたまに飲んだりするんですが、以前、彼に「どうして作ったんですか?」って聞いたことがあります。そしたら彼は「一つひとつの文章が刺さりに刺さったから」と。自分たちが当たり前に感じていた不動産業の世界の深部にある一番濃いところを、業界にはいない新庄さんというアウトサイダーが描き上げた。それが面白くて、とにかく発信したかったからbotを作ったって言ってました。

新庄 不動産業の人にそこまで刺さるとは想像していなかった。

麻布 新庄さんの作品は労働者にグサグサ刺さるものばっかりです。僕は『ニューカルマ』が一番好きです。あれはネットワークビジネスの話だけど、それだけにとどまらないドロドロした大人の世界が描かれてると感じました。作中の木村社長のあくの強さって、人間の本質的な部分を表してると思うんです。そういう人間や社会の深部を抉る文章だからこそ、botにすることで拡散されるんだと思います。

新庄 刺さる言葉って、狙って出てくるものでもない気がします。

麻布 結果としてやるのがいいんですよ。媚びてないっていうか。新庄さんは書きながら、誰かに刺さるといいな、みたいな気持ちはないんですか?

新庄 ないですね。私は自分自身に向けて言葉を投げつけていますから。「しっかりしろよ、自分」みたいな気持ちで書いてます。でも、それじゃあ書き手として小さくなっちゃうような気がするので、ダメだなって思ってますけど。麻布さんは誰を意識して書いてるんですか?

麻布 誰なんだろう。属性を茶化したいみたいな露悪的な気持ちで書くこともあるんですが、どちらかというと、Twitterは自分が考えたことを整理する場所として使ってる意識の方が強いかな。あまり特定の誰かっていうのは意識したことはないかもしれません。誰かを救いたいとかいう気持ちもない。一度、アンチの人に「あいつはセラピーとして書いてるんだ」って言われたことがあるんですが、あながち間違ってないと思います。自分が内側に抱え込んでいる何かだったり、これまで経験してきたことだったり、他人から受け取って蓋をしたままにしていたものだったり。そういった自分のなかの苦しい部分をセラピーで解決するために文字化してるんじゃないかって最近、自分でも思います。

新庄 人の話を聞くのが好きだからこそ、内側で膨張してしまった苦しみを昇華させてるみたいな感覚?

麻布 ええ。他人の辛い話を聞くのは好きなんですが、でも、やっぱり聞いてばかりいるとこっちも辛くなっちゃうんですよ。なんでこんなに辛いのに生きてるんだろう、みたいな気持ちになってしまう。だから自分の心にできたニキビを潰すみたいな感じで、もしかしたら自分に向けて書いてるのかも。前に測ったら、140字ほどのツイートって投稿するのに3、4分ぐらいしかかからなかった。つまり一文字、何秒とかで書いてる計算になります。そうすると冷静に考えてる暇なんてないし、下書きとかせずに、結末すら決めずに書き始めることも多いから、誰に向けて何を書いてるかわからない感覚になるというか。

新庄 なるほど、心の整理か。私は結局、かまってちゃんなので、自分の苦しみを誰かに知ってもらいたいみたいな願望が無意識のうちに出ちゃってるように自分でも感じます。でも、麻布さんの場合は他者の目を全く気にしてないんだろうなって思います。そこはかとない余裕が文章には漂ってますし(笑)。

麻布 人を小馬鹿にすることで自分の地位を数センチ上げるという、嫌なことをしてるだけですよ(笑)。

新庄 それが普通の人にはない余裕なんです(笑)。小説家としてのこれからのビジョンってどんなものを思い描いてるんですか?

麻布 いや、もう全然わかんなくて。逆にこの業界で小説家として10年生き残ってる先輩として、どうしたらいいかアドバイスください(笑)。

新庄 いやいや、生き残ってない(笑)。墜落寸前(苦笑)。でも、うーん、そうだな、やっぱり読者からのコメントとか、ああいうのは全部無視でいいんじゃない? とは思いますね。小説家って、最後に自分の魂に残るものを信じられるかどうか常に試されてるんじゃないかなって気がするんです。麻布さんはマーケティング的な部分に長けているので、そこら辺の自分のスタイルを信じていいんじゃないでしょうか。麻布さんの作品を読んで、とにかく自分には書けないものだと思ったし、だからこそ、周りが何を言ってこようと全部無視しちゃっていいと思います。

麻布 やりたいことをやりたいようにやればよろしいってことですかね。

新庄 そうですね。それで大作家になっても、僕と仲良くしてください(笑)。

麻布 ははは(笑)。ちゃんとオチをつけるあたり、さすがです。

(※本対談は、小説すばる2022年9月号から転載したものです)

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麻布競馬場

あざぶけいばじょう
1991年生まれ。慶応義塾大学卒業。
著書に『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)、『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)。

Twitter@63cities


(イラスト:岡村優太)

新庄耕

しんじょう・こう
1983年京都府生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2012年『狭小邸宅』ですばる文学賞受賞。著書に『ニューカルマ』『カトク 過重労働撲滅特別対策班』『サーラレーオ』『地面師たち』『夏が破れる』など。最新刊は『地面師たち ファイナル・ベッツ』。

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