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Twitterで〈刺さる〉小説を書く方法【麻布競馬場×新庄耕 創作対談】

Twitterで小説をバズらせる方法

麻布競馬場さん(イラスト:岡村優太さん)
麻布競馬場さん(イラスト:岡村優太さん)

新庄 いまお話しされた観察の趣味が、どうして文学をやりたいって気持ちと繫がったんですか?

麻布 どうしてなんでしょうね。というか、僕には「文学」って呼ばれる何か一つの型を目指してるような意識はないんです。コロナ禍になってから、気付いたんですけど、僕って人と会って話すことで自分が考えたことを整理したり吐き出したりしてたんですね。もともと社交的な性格なので、コロナ前は毎日、誰かと会って飲んでいました。
 でも、コロナ禍になって、人と全く会わなくなってから、頭がパンパンになる感覚に襲われました。誰とも話せない、誰とも会えない。電話で話しても変な感じがするし、テキストメッセージでは飲み会で交わすようなトークなんてできないし。それでどうしたかっていうと、マスクをして緊急事態宣言下の東京を、ぶつぶつ言いながら、ぶらぶら歩くようになったんです。そのうちにそんな習慣を実行する場所をTwitterに移すことにしたんですが、そうしたら不思議と小説になった。この作品集の最後に「すべてをお話しします」という、あとがきとも違う不思議な文章を書きましたけど、あれはコロナ禍の自分そのものです。

新庄 ユニークなきっかけだなぁ。最初に文章を書き始めたのっていつなんですか?

麻布 新聞の投書欄に投稿したことがきっかけかもしれない。友達に新聞の投書欄マニアがいたんです。あれって、匿名の人が密かに悩んでることをみんなに見せつけたいみたいな、不思議な倒錯性が投稿者たちの内側にあるんですよ。そばで見てて面白いなって思っていたんですが、そのうちにそのマニアの友達を驚かせてやりたくなって。内緒で架空の名前と架空のエピソードで投稿したら一発で掲載が決まった。

新庄 それはすごい。

麻布 でも、いま読み返すと、書いてることは変わらないんですよ。モテなかった男の子が大きくなって、いい大学に合格して、いい会社に入って、お金を持つようになってモテ始めた。憧れの生活が手に入ったのに、寄ってくる女の子は肩書きしか見てくれない。そんな女性を軽蔑して粗雑に扱っちゃうから、彼女もできない。結婚も無理。友達もいないし、毎日ひとりで、麻布十番のタワマンで成城石井で買ったビールを飲む、みたいな悩み(笑)。

新庄 麻布さんのTwitter小説そのまんまだ(笑)。

麻布 そうそう(笑)。あの頃から「今年で30歳になります」っていうこの作品集でもお決まりのフレーズを使っていました。だからあれがいま書いてることの原点だと思う。本当はダメなんですけどね、投書欄に噓の名前で架空の話を書くっていうのは。

新庄 そういうのって、傾向と対策とかあるんですか?

麻布 めっちゃ研究しました。投書の名作と言われるやつを片っ端から読んで。こういうのがウケるのかって。普段の仕事の関係もあって、媒体に合わせて読まれる文章を書くというのは得意です。誰がどれだけ読んでくれるかっていうのもすごく意識して書いています。読まれる上での最適な状況を研究して作り出すみたいなことがすごく好きなんです。

新庄 だから、Twitterもバズるし、ちゃんと読まれるわけだ。

麻布 はい。僕はツリーの最後まで読まれる割合のことを「完走率」って呼んでいて。最初のツイートと最後のツイートのインプレッションを並べてみると、どれぐらいの人が最初から最後まで読んでくれたかがわかるんです。僕の場合は大体8パーセントから10パーセント。やっぱり書いたからには最後まで読んでもらいたいから、この「完走率」をとにかく上げる必要がある。そのためには、純粋に中身を良くするのはもちろん、例えばツリーの最初だけじゃなく、途中にもバズりやすい固有名詞とか突然の切実な心情の吐露とかを入れ込んだ「山場」を作るとか、いろいろと手法を考えて、日々、それを実践してるって感じですね。

新庄 すごいですね。マーケティング能力というか、世の中の流れを読んでどうすれば注目してもらえるか分析することにめちゃくちゃ長けてる。普通は広報とかマーケがやる仕事なんだろうけど、個人でそれができちゃうんだもんな。

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新刊紹介

麻布競馬場

あざぶけいばじょう
1991年生まれ。

Twitter@63cities


(イラスト:岡村優太)

新庄耕

しんじょう・こう
1983年京都府生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2012年『狭小邸宅』ですばる文学賞受賞。著書に『ニューカルマ』『カトク 過重労働撲滅特別対策班』『サーラレーオ』『地面師たち』『夏が破れる』がある。

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