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男と女なんて結局似たもの同士? どっちもどっち?〜 変わり者でいたい女 vs. イケメン発言男

男と女なんて結局似たもの同士? どっちもどっち?〜 変わり者でいたい女 vs. イケメン発言男

イケメン発言男~自分の低い鼻を完全に忘れてる話

飲み友達が一瞬付き合った某投資銀行のヴァイス・プレジデントとかいう肩書だけ超偉そうな、今の私よりは随分と年下の、顔はマイケル・ダグラスでもベン・アフレックでもなく好意的に見ても香川照之って感じの男が、「シェーバーは仕事行く前にジムで使う」と言っていたのを、私は悪意を持って一度も忘れてはいない。
どう考えても店前に出れば一瞬でタクシーが捕まる六本木の飲み屋でわざわざ「車よぶわ」と言ったり、「アルマーニはペラっとしてるからセルッティなんだよね」と言ったり、「ホテルの朝食はホワイトオムレツ」と言ったりしていたことも。

今思えばたかだか27、8歳くらいの男が何を気取ってイタリア製スーツでジムでシェイブ? アオキの背広着てサウナで乾布摩擦しろと言いたいんだけど、そこは平たい顔で一所懸命カヴァリとか着て気張って結局せいぜい日本よりは少しだけ西にあるアジア諸国の観光客にしか間違えられない私と似たような運命を背負ってるので甲斐甲斐しいと言えば甲斐甲斐しい。

ちなみにうちの父は未だにスパゲッティをスプーンでクルクルするのが西洋風でおしゃれと思っているが、家族旅行に行った時など隣のテーブルなどと見比べて、大人のヨーロッパ人でスプーン使ってクルクルしている人などいなくて、多分フォークだけでクルクルできない子供用に考えられた食べ方で、しかも父は常に食後用の糸ようじを持ち歩いているので、やはりどんなにイタリア製ジャケットを着ても下町のおじちゃんである。

自分が日本人顔なのを忘れて話されると……
自分が日本人顔なのを忘れて話されると……

さてそうした欧米風のアピアランスで多少気取っているくらいはまだ流せても、平たい顔の男から平たい顔の私に向かってくる発言が、西海岸のいい男の香りを漂わせていた日には、脳内メモにその台詞が色濃く記されたまま、何ヶ月経っても色褪せない冷笑を誘ってくるものです。

今年の夏の初め、大学時代にごくたまに二人でご飯とか行く仲だったバツイチ子なしの女友達の一人とたまたま連絡を取り合って映画とご飯に行ったのだけど、居酒屋を出た後に、最近デートしてる男が近くで仕事が終わるらしいから一緒に帰る、と言うので私も付き合って、近くにあったスタバでコーヒー飲んで待ってることになった。すると思ったよりはやくノーネクタイの割にはいかにも高そうなパンツとシャツの男があらわれ、はからずも3人でしばらくお茶する羽目になり、私は当然ブルガリのカフスつけてるその外資系製薬会社の男を最初から偏見に塗れた眼差しで観察する。

すでにソファ席を陣取っていた私たちに遅れて、カウンターでダブルショットなんちゃらを受け取ってこっちに向かってくる男はなぜか不自然ににやけ顔で、ちなみにその顔はしいて言えば美人アナと離婚した徳光さんの息子に似ていて、私の向かい、彼女の隣の一人がけソファに座るか座らないかくらいのタイミングで聞いてもないのに「いやね、」と話し出した。
たぶん自分のカノジョの方に話しかけているのだけど、世の中の人みんな私に向かって何か言ってる、と思うほど自意識過剰な私は、初対面の彼の言い分を一応最後まで、うん、うん、と聞くことにした。

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新刊紹介

鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中にキャバクラ嬢として働くなど多彩な経験ののち、卒業後は2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、世相に関するエッセイやコラムを多数執筆。
近著に『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』など
公式Twitter @Suzumixxx

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