2021.11.28
「捨てないパン屋」がアフター・コロナに目指すもの――田村陽至さん×井出留美さん「食品ロス」特別対談
全10回のうち、もっとも大きな反響を呼んだのが、広島でパン屋「ブーランジェリー・ドリアン」を経営する田村陽至さんを紹介した回でした。
長時間労働・大量廃棄が常識のパン屋業界で、田村さんは、売り上げを下げずに「働かないパン屋」「捨てないパン屋」を実現。井出さんは、食品ロスジャーナリストとして、たびたび田村さんを取材しており、お互いに持続可能な社会の実現に向けて奮闘する同志として、交流を続けてきた間柄です。
今回はそんなお二人の特別対談が実現。はびこる経済優先思考に対する疑問、田村さんの新天地における新たなる挑戦についてなど、本音でたっぷりと語り合っていただきました!
(構成・文/よみタイ編集部)
コロナ禍で週4労働に、そして岡山県・蒜山へ
井出 田村さん、お久しぶりです。新型コロナウイルスの影響はいかがでしたか。
田村 お久しぶりです。今日は今後のことも含め、井出さんと色々お話ししたいと思って、楽しみにしていました。コロナの影響は、うちにも少なからずありましたね。店舗(「ブーランジェリー・ドリアン」広島八丁堀店)は売り場が狭く、行列もできて、お客さまが密集してしまうので、2020年3月には店を閉めました。当然、店舗の売り上げはゼロに。でもちょうどその頃から、週4労働・週3休み体制に変えていたので、休みを使ってじっくり情報収集したり、夫婦で話し合ったりして対策を練って、ネット店の定期購入枠を拡大することで、売り上げは確保することができました。
井出 ご著書では、売り上げを変えずに、日々の労働時間を14時間から8時間に短縮された工夫を紹介されていましたが、そこからさらに効率化を進めて営業日を減らされたんですね。
田村 僕も当初は、いくらなんでも週4労働で生活を回していくのは無理だろうと思ったのですが、意外にできました。「無理だ」と考える自分自身が変化を妨げる壁になっているんですよね。やっぱりなんでもやってみるのが大事。やってみてできなければ、またやり方を変えればいいんですから。最初の1か月はそれまでの週6日でやっていた仕事が週4日に詰まるので大変だったのですが、だんだん省けるところが見えてきたり、時間の使い方がわかってきたりして、なんとかなりました。効率化といってもすごく地味なことですけどね。注文や仕込みの量をシステムで管理するようにして時短化したりとか、釜を大きくして1日に焼けるパンの量を増やしたりとか。
井出 週3日休みに生活が変わって気づいたことはありますか?
田村 時間がものすごく増えました。子供と過ごす時間も増えたし、ゆとりがあるからパンや経営について勉強しようという気力も生まれるし。仕事の質が上がります。それで、遠出もできるようになって、色々見て回っているうちに、岡山県蒜山で広い土地付きの古民家に出会ってしまい、2020年の夏に移住したんです。広島の店は一旦閉店して、今はネット販売のみ行っています。
井出 田村さんは広島ご出身で、広島のお店にもとても愛着を持たれていたので、蒜山に行かれたのはちょっと意外でした。
田村 もともと山が好きというのもありますし、古風というか、原始的なものに惹かれるところがあるんですよね。広島の実家のあたりも、うちの両親が子供の頃は周りが田んぼだったらしいのですが、今ではすっかり街になっています。蒜山では小麦やエネルギーの自活をやってみたいと思っているのですが、そういうのは、さすがに広島では難しいかな、と。蒜山の古民家には、8千平方メートルの田畑と、4万2千平方メートルの山林がついてきたんです。ここをこれからどうしていこうか、今、うちもちょうど過渡期なんです。