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「捨てないパン屋」がアフター・コロナに目指すもの――田村陽至さん×井出留美さん「食品ロス」特別対談

どんな職業でも、お金の勉強は必要

井出 その「豊かさ」というのは、どういうものでしょうか。

田村 お金も時間も家族など人との関わりも、そのバランスをうまくとっていくということですね。やっぱりお金は大事です。どんな田舎暮らしでも今はお金がないと生きていけないですからね。そして、パン屋など飲食店経営者が頑張って月に20万稼いでも、YouTubeとか株で60万稼ぐ人が出てきてしまえば、相対的に飲食店で働く方が貧乏になってしまう。かといって、じゃあ朝から晩まで働いて稼ぎを増やそうとすれば限りある時間が全て仕事に費やされてしまう。いかに限りある時間を仕事だけに費やさずに、必要なお金も稼ぐか、というところが大事になってきます。パン屋のお悩みで“あるある”なのが「一生懸命働いて50個作って、お客さんもたくさんきてくれて、50個売りました。でも赤字で、生活できないんです」というもの。そもそも、200個作って売らないと黒字にはならないという最初の計画ができていないんです。

製法はできるだけシンプルにして「手を抜く」が、窯や素材には徹底的にこだわるのが、田村さん流
製法はできるだけシンプルにして「手を抜く」が、窯や素材には徹底的にこだわるのが、田村さん流

井出 でも、そこで200個作ろうとしたら、さらに労働時間を増やすことになりませんか?

田村 50個を60、70個にするなら、働く時間を増やすしかないかもしれない。でも50個から200個という4倍にするなら、大きなミキサーを買うとか、効率の良い焼き窯を導入するとか、もっと根本的な解決が必要なんです。そういう場合、変化の最初こそ時間やお金の投資があるかもしれませんが、それほど労力が増えるということはないんですよ。でもこの変化の必要性がわからずに、やみくもに働いて、赤字を出して、疲弊している人が本当に多い。パン屋経営に限らず、お金については、どれくらい必要なのかがわかっていれば、むやみに振り回されることがなくなると思います。いわゆるファイナンシャルプランがあれば、それが“地図”になって、どういう働き方をすればよいのかが、具体的に見えてきます。お金について話すのは下品だと思う人も多いし、僕も昔はちょっとそういう感覚があったのですが、やっぱりお金の勉強は大事。知らない敵とは戦えませんからね。

井出 エネルギーの自活や学校以外に、これからやりたいことはありますか?

田村 次のフェイズという意味では、人を雇うことにしました。職人さんを入れて、自分は少しずつ製造の現場にいる頻度を少なくしようと考えています。労働時間を短くしたとはいえ、朝から昼までずっと重労働をやっていると、さすがにその後は活発に動けないので、学校やエネルギーの実験をやるためには、人に任せていく部分も増やしていかないといけないな、と。広島の店を、独立した研修生に預けるプランもあります。これまでは夫婦でいかに働き方を効率化して豊かになれるかという実験をしていたのですが、それは一区切り。今度は、もっと関わる人を増やしても豊かになれるかという実験をしていきたいと思っています。

井出 今がまさに田村さんの過渡期なんですね。今後の活動も注目しています!

田村 ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします!

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田村陽至

たむら・ようじ
1976年広島県生まれ。祖父の代から70年続くパン屋3代目。大学で環境問題を勉強。卒業後、北海道や沖縄で山・自然ガイド、環境教育について修業。その後、2年間モンゴルに滞在しつつ遊牧民ホームステイなどを企画。帰国後の2004年、パン屋を継承した。
2012年には1年半休業してヨーロッパで修業し、店をリニューアル。2015年秋から一つもパン捨ててない「捨てないパン屋」として活動している。
10年間毎年、約40日間の夏期休暇を取り、様々な国々のパンや発酵を学ぶ。
研修生、見学者を沢山パン屋に独立させて、自慢するのが趣味。
2020年、岡山県蒜山に移住。
「ブーランジェリー・ドリアン」のHP●https://derien.jp/

井出留美

いで・るみ●食品ロス問題ジャーナリスト
奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。311食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。「食品ロス削減推進法」成立に協力した。政府・企業・国際機関・研究機関のリーダーによる世界的連合Champions12.3メンバー。
『あるものでまかなう生活』(日本経済新聞出版)、『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬社新書)、『捨てないパン屋の挑戦 しあわせのレシピ』(あかね書房)など著書多数。
食品ロスを全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。

公式サイト●http://www.office311.jp/
Twitter●@rumiide

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