2022.9.16
「矢沢あい展」でも大注目! 4刷決定『ストリート・トラッド〜メンズファッションは温故知新』より「パンク」カルチャーをひも解く
モザイクカルチャー
さまざまなバリエーションが生み出され、一言ではくくりにくいパンクスタイルだが、ひとつだけはっきりした特徴は、テディボーイズやロッカーズ、さらにモッズやスキンヘッズなど、 過去にイギリス国内で巻き起こったさまざまなストリートスタイルを部分的に拝借し、乱雑に、モザイク的に組み合わせていたということだ。
パンクロックのサウンドと同様、既存のカルチャーに強く影響されているにもかかわらず、それをまっとうに継承するのではなく、一旦破壊してまぜこぜにしたうえで再構築したのが、パンクファッションだったのだ。パンクはメルティングポットのようなカルチャーであるといわれる所以である。
一大ペテン
現代のストリートスタイルにも影響を色濃く残すパンク(特にロンドンパンク)は、実はマルコム・マクラーレンという仕掛け人によってはじめられ、滅茶苦茶なように見えて裏でしっかりコントロールされた、まるで虚構のようなムーブメントだったと見ることもできる。
パンクカルチャー好きにとっては信じたくないようなことかもしれないし、あるいはそういうペテン的な側面も含めて、パンクは面白いと感じる人もいるだろう。
一九八〇年に公開されたイギリス映画『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』は、セックス・ピストルズのヒストリーをたどるドキュメンタリー映画という体裁をとりながら、マル コム・マクラーレン本人が、ロック業界とファッション業界を手玉に取った数年間のいかさまぶりを、まるで手品の種明かしをするように得々と語るという、一種異様な内容になっている。映画の中で彼が着ているセディショナリーズのTシャツの胸元には、「CASH FROM CHAOS(=混沌から現ナマ)」と、まるでみずから仕掛けたパンクムーブメントを総括するようなフレーズが、大きくプリントされている。
また、一九八六年に公開されたアレックス・コックス監督によるイギリス映画『シド・アンド・ナンシー』は、シド・ヴィシャスとナンシー・スパンゲンの破滅的な愛を描き上げた、過激なラブストーリー。セックス・ピストルズのファッションや演奏シーンなどが見事に再現されていて見どころは多いが、麻薬中毒者であるシド・ヴィシャスを美化しすぎているとの批判も多く浴びせられた映画である。この映画に登場するマルコム・マクラーレンは、飄々とした一種のトリックスターとして扱われている。
しかしその後、さしものマルコム・マクラーレンも恐らく予見していなかった形に、パンクは発展することになる。ハードコアパンクだ。
(以上、『ストリート・トラッド〜メンズファッションは温故知新』より転載)
重版4刷決定! 読めばおしゃれがもっと楽しくなる
佐藤誠二朗さんの『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』は、モッズ、ヒッピー、ノームコアなど、1930年代から現在に至るまでのストリートファッションを網羅した1冊。
ストリートスタイルの奥底に潜む反逆性とトラッド性の関係を探るため、その成り立ち、細かなスタイルの変遷を、多くの事例や画像とともに詳細に解説しています。
ファッションスタイルだけでなく、時代背景や音楽などの情報も満載。
近代カルチャー史の必携としてファッションファンのみならず幅広い支持を受け、この度4刷が決定しました!
全31スタイルのイメージイラストは、全点、漫画家の矢沢あいさんによる描きおろし。史実に忠実に、流麗なタッチで描かれたストリートの少年たちの姿は圧巻です。
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