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「矢沢あい展」でも大注目! 4刷決定『ストリート・トラッド〜メンズファッションは温故知新』より「パンク」カルチャーをひも解く

パンクファッション

 多くのロンドンパンクバンドのメッセージには、個人の自由を尊重すること、DIYや直接行動をうながすこと、現在の政治体制と既存の権威への反発・不服従、自己愛、逆に未熟な自己に対する憤り、そして産業ロックに対するアンチテーゼなどが含まれていた。
 パンクバンドのメンバーと、それを支持する聴衆は、衣服、髪型、化粧などを駆使し、そうしたイデオロギーを見た目のインパクトで表そうと試みた。
 初期パンクスのファッションは、ビリビリに破いた服を安全ピンで留めたり、テープを巻いたり、ペンキやスプレーで服にメッセージを書きなぐったりといったDIY精神に満ちあふれたものだった。安全ピンや剃刀の刃をアクセサリー代わりとして用い、女性はSMの衣装である革やラバー、ビニール製の服を着用した。
 マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドの店のオリジナルブランドであるセディショナリーズ(店名も一九七六年にセディショナリーズに変えている)のアイテム、ストラップとジッパーを多用したボンデージパンツやプリーツ入りパンツ、パラシュートシャツ、スウェードのスリングバックシューズ、丸衿のピーターパンシャツ、モヘアニット、ベルベット衿のテッズ風ジャケット、ガーゼシャツなども人気が高かった。これらはもっぱら、店の広告塔的な役割を担わされたセックス・ピストルズが広めたスタイルである。
 ジョニー・ロットンがよく着ていたエリザベス女王の肖像を使ったものをはじめ、セディショナリーズのTシャツのアートワークは、マルコムの美術学校時代からの友人であるジェイミー・リードが手がけた。脅迫状のような活字の切り貼り風フォントや、ロック史に残るショッキングなデザインとして知られるピストルズ唯一のオリジナルアルバム『ネヴァー・マインド・ザ・ボロックス』のレコードジャケットも彼の手によるものである。
 それに対してパブロックやレゲエ色の強いザ・クラッシュはロッカーズ風、ザ・ジャムやエルヴィス・コステロはモッズ風、ザ・ダムドはタキシードに白塗りメイクのオカルト風、スージー・アンド・ザ・バンシーズはナチス風の服装でキメ、これらのバンドやミュージシャンを支持するファンは、同様のファッションで身を固めた。
 パンクスの多くはピストルズのジョニー・ロットンや、二代目ベーシスト、シド・ヴィシャスの髪型を真似、散切りの髪を立たせて固め、さまざまな色をつける者もいた。いずれも、競うように見た目のショッキングさを求めるのがパンクスタイルだった。
 また、細いジーンズやチェックのズボン、スカート(男性でも)、モヘアのボーダーニット、メッセージ性の強いTシャツ、コンバースのスニーカー、ジョージコックスのラバーソール(ブローセル・クリーパーズ)、ドクターマーチンの編み上げブーツ、鋲付きのリストバンドやベルトなども好まれた。

ジョージコックス

ジョージコックスのラバーソール、 型番5289
ジョージコックスのラバーソール、 型番5289

 ここで、テディボーイズが愛し、パンクスに引き継がれたシューズ、ジョージコックスのラバーソールについて軽く触れてみよう。ラバーソールはパンクファッションを考えるうえで、非常に象徴的なアイテムなのである。
 一九〇六年、イギリスの靴製造業の聖地であるノーザンプトンで、ジョージ・ジェイムズ・コックスによって設立された靴メーカー、ジョージコックスは、日本ではラバーソールと呼ばれるクレープソールの厚底シューズ、ブローセル・クリーパーズを一九四九年に開発している。軍靴などの例外を除き、世界で初めてゴム底を採用した靴だ。
 ブローセル・クリーパーズはそれまでの革底の靴では味わえなかったソフトな歩き心地で発売当初から注目されたが、あまりにも風変わりな見た目であったため、色モノ的な靴とみなされていた。しかし一九五〇年代、テディボーイズに見いだされ、若者の間で人気を博すようになる。
 マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドのショップ、レット・イット・ロック がリバイバルしたテディボーイズのための店であることは前述したが、このジョージコックスのブローセル・クリーパーズも売れ筋商品のひとつだった。
 店が変遷して以降も、ジョージコックスのブローセル・クリーパーズは看板商品でありつづけ、セックス・ピストルズをはじめ、ザ・ダムド、ザ・ストラングラーズなど、初期パンクバンドのメンバーが履くようになった。こうしてブローセル・クリーパーズは、テディボーイズ御用達だった古いシューズというイメージから脱却し、最新鋭のパンクファッションのひとつとして認知されるようになるのである。

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新刊紹介

佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『オフィシャル・サブカル・ハンドブック』『日本懐かしスニーカー大全』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

ツイッター@satoseijiro

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