2021.10.25
乳がん治療を中断して妊娠…だいたひかるさんが「100万円の使い道は完全貯金」と断言する理由
その使い道から見えてくるのは、それぞれ異なる「お金や人生についての価値観や哲学」。誰しも関心があり、生きていくには絶対に必要だけど、それに囚われすぎても幸せな人生とはいえない――そんな不思議な存在、「お金」に迫ります。
前回は、数千万もの借金を背負った経験を持つ作家・借金玉さんが、独自の哲学に基づく「100万円の使い道」を語ってくださいました。
今回は、お笑い芸人・だいたひかるさんにご登場いただきます。
だいたさんは、38歳から始めた不妊治療、41歳の時に発覚した乳がんの治療を経て、46歳の現在、待望の第一子を妊娠中。
人生の大きな転機を経験して、お金との向き合い方にはどのような変化があったのでしょうか。
(構成・文/「よみタイ」編集部)
人生で一番軽くて役に立つのはお金
もしも今、自由に使える100万円があったら、完全に貯金します。
もともとは、あるぶんだけ使っちゃうタイプだったのですが、がんになってお金に対する感覚や使い方が変わりました。
乳がん治療で入院していた病院に、日当たりのいいデイルーム(共用の談話室)があって、80代くらいのおばあさんたちが毎日そこに集まって女子会みたいにおしゃべりしていたんです。
おばあさんたちは、家族のこととか病気のこととか、いろいろなことについておしゃべりしているのですが、締めくくりはいつも「何はなくともお金が大事!」。
デイルームで本を読んでいることが多かった私は、そのお決まりのフレーズが耳に入ってくるたびに、本当にそうだなあと思っていました。
1日後、1週間後、1か月後に何があるかなんて、誰にもわかりません。1年先なんて本当に全く分からない。そんな人生において、一番軽くて邪魔にならず、役に立つのはお金です。
私はがんになった時、自覚症状が一切ありませんでした。区から配布された無料検診のクーポンがあって、せっかくだから受けてみようと軽い気持ちで検診に行ったら、診断結果はまさかの乳がん。あれよあれよという間に入院することになって、放射線治療が始まりました。
自分の体のことも気になりますが、それと同じくらい、もしかしたらそれ以上に頭を占めていたのが、お金のこと。
治療には一体いくらかかるのか、何百万なのか、何千万なのか、当初は見当すらつきませんでした。でも、お医者さんから、この治療法がいいと聞いたら全部やりたくなるじゃないですか。
人生初めての長期入院で、働きたいのに働けない、お金が必要なのに稼げない恐怖を感じました。
「やっぱり先立つものはお金だ。退院して働けるようになったら、とにかく貯金しよう」と、病院のベッドの上で強く思ったんです。
それまでの私は物欲が強くて、洋服やバッグ、文具などに、どんどんお金を使っていました。
高級志向ではないので、ひとつひとつの額は大したことはないのですが、数や種類をたくさん買い集めてしまって、しかも捨てられないタイプ。
特にノートは、新しいものを使うと気分も新しくなる感覚が好きで、家中にあふれるくらい持っていました。「もう寝たいのに、ネタを書かなきゃいけない……」とか、時間に追われたり精神的に追い詰められたりする度にノートを新しくして、頑張ろう! というスイッチにしていたんです。500冊くらいあったのではないでしょうか。