2021.9.25
何でもないような事は幸せだったのか――武田砂鉄さんが読む『沼の中で不惑を迎えます。』
貴方の生き方、それでいいと思う、などとジャッジされる機会がずっと苦手なのだが、これからもずっと、こうやってジャッジされ続けるのだろうか。もしかしたら、これが最後で、あとは自由にやっていけるのだろうかと毎回思うのだが、多分ずっとこの感じが続くのだろう。でも、私たちには、いくつもの切り札がある。ひたすら隠れたり、うっかり潰したり、勢いよく壊したり、猛スピードで逃げたり、じっくり溶かしたりして、ナシにしてしまうアレである。この本を読んでいると、「あの人、ヤバイ人だよ」ってところで評価が固まると、人は自由になれるのではないか、という希望を感じる。
著者もヤバイし、本書に頻繁に登場する編集者・エイチさんもヤバイ。酒に溺れていた頃、戒めのために買った聖母マリアの絵を飾り続けているエイチさん。2人に共通するヤバさというのは、「常識から外れているヤバさ」という意味でのヤバさではなく、「社会規範と自由意志をぶつけた時に、平然と自由意志を優先するヤバさ」である。この2人は、幸せだったと思っている何でもないような事が互いに違う。その違いをぶつけ合い、気持ちよく弾けている。その摩擦熱というか、早速、着火しちゃった様子を読みながら、なんだか、これからも、元気に楽しくやっていけそうな気がしてくる。気がするだけかもしれないが、そんな気にさせてくれるなんて最高ではないか。
この書評依頼も、編集者・エイチさんからいただいたのだが、メールの末尾に、「初めて買ったCDも虎舞竜ですし、やっぱりどこまでも田舎のセンスの人間だということを自覚して生きていかないとならない、と思っております。ちなみに武田さんが初めて買ったCDは何なのでしょうか。気になるところです」と書かれていた。私が初めて買ったCDは、大黒摩季の『あなただけ見つめてる』です。何でもないような事が幸せだったと思う、と勝手に決めつけるより、こっちのほうが誠実な態度ではないでしょうか。そう思っているのだが、そこは戦わせてはいけないのかもしれない。手を組めるかもしれないし、組めないかもしれない。まずは話し合いだ。
●第2回 推しにたくさん幸せをもらったから、推しにも幸せになってほしい ——森三中・黒沢かずこさんインタビュー
●第3回 だれがなんと言おうと、わたしたちのおしゃべりには価値がある——少年アヤさんが読む『沼の中で不惑を迎えます。』
●第4回 何でもないような事は幸せだったのか——武田砂鉄さんが読む『沼の中で不惑を迎えます。』
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人生の半分以上、沼にはまり続けて20年。
アラフォー、独身、実家暮らしの漫画家・竹内佐千子さんが、輝かない日常を綴るコミックエッセイ。
不惑を迎えるはずの身にふりかかる、推しの結婚、お金や健康問題、親の介護や自身の老後への不安……。
オタクにも非オタにもあまりにも切実すぎる、全アラフォー必読の書です!
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