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だれがなんと言おうと、わたしたちのおしゃべりには価値がある——少年アヤさんが読む『沼の中で不惑を迎えます。』

だれがなんと言おうと、わたしたちのおしゃべりには価値がある——少年アヤさんが読む『沼の中で不惑を迎えます。』

9月3日にコミックス『沼の中で不惑を迎えます。輝くな! アラフォーおっかけレズビアン!』が発売されました。
人生の半分以上、沼にはまり続けて20年。アラフォー、独身、実家暮らしの漫画家・竹内佐千子さんが、決して輝かず、されど奇妙に充実した日常を綴ったコミックエッセイです。
刊行を記念し、『沼の中で不惑を迎えます。』書評、全4回の特別連続企画としてお届けします!

前回は、大の「東方神起」ファンであることを公言している黒沢かずこさんにインタビュー。本の感想や、ご自身の推し活について語っていただきました。

今回は、竹内さんの既刊『2DK』などの愛読者であり、ご自身もエッセイストとして活躍されている少年アヤさんに、本作の魅力についてご執筆いただきました。

 自分の話をします。ぼくは8年ほどまえ(そんなに経つとか、無理……)SHINeeのキーくんを推していました。理由はただひとつ、あんな顔に生まれたかったからです。そしてあんな声で、あんな身のこなしで、大勢の人に愛されかったからです。要は、理想の自分として彼を偶像化、神格化し、心の神殿に祀っていたのでした。本質的にはアイドル不在です。ひとり相撲です。のめり込むあまり、等身大のぬいぐるみを作り、祖母に捨てられて嗚咽したり、新大久保で買い込んだ大量の非公式グッズでハウスダストアレルギーを起こしたりと、せわしない日々をおくっていました。
 あれから8年経ったいま、他者を偶像化、神格化し、その人生を消費することの反省と後悔から、めっきりアイドル文化には近づかなくなりました。BTSと防弾少年団が一致したのも先月です。また、単純にもう二度と、あんな熱狂に呑まれたくない、という思いもあります。

 ところが本書を読んでから、ぼくはあの狂乱の日々を、妙になつかしく、愛おしく思い返しているのでした。そこにいるのはアイドルではなく、現場やSNS、仕事を通じて知り合った友人たちの存在であり、彼女たちとのおしゃべりの記憶なのです。
 もうほとんど交流がなくなってしまいましたが、特定のアイドルに熱狂する友人たちの、いまにもゲロを吐きそうな、だけど恍惚とした表情(わかるでしょ?)。渦巻く欲望や胸の痛みを吐き出し、分かち合うためだけに、みるみる上昇していく語彙力と表現力(わかるよね?)。振り返ると、みんなアイドルを通じて、つねに自分の話をしていたし、したかったんだと思うのです。だからあんなにくるしくて、切実で、おもしろかったのではないか。そしてそこには、アイドルを信仰、消費することと切り離しようのない、それぞれの人生があったのではないか。
 当時二十歳そこそこだった自分の場合、性自認が曖昧で、どこにも所属できないような感覚でいたこと。それゆえ、わかりやすい記号を用いて社会とつながろうと足掻いていたこと。そしてセクシャリティについても、まだまだ受け入れられないでいたこと。その他容姿のコンプレックスなどのもろもろが、アイドルという偶像を用いた自己愛の信仰へとつながっていました。
 だけど、それぞれの人生を足掻く友人たちと新大久保の料理屋に集合し、テーブルいっぱいの韓国料理をつつきながら、わたしがなぜここにいて、こうも熱を発しているのかをぶつけあう時間は、当時のぼくにとって解放であり、癒しでさえあったのでした。ふと見ると、ほかのテーブルでも同じことが起きている。年代も、境遇も超えて起きている。

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少年アヤ

しょうねんあや●平成元年生まれ。エッセイスト。著書に『尼のような子』『焦心日記』『ぼくは本当にいるのさ』『なまものを生きる』『ぼくの宝ばこ』『ぼくをくるむ人生から、にげないでみた1年の記録』などがある。

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