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灼熱のサハラ砂漠1000km走破! 日本唯一のプロアドベンチャーランナーが384時間45分に渡る死闘で得たもの

「アドベンチャーマラソン」――
砂漠、荒野、山岳、氷雪、ジャングル……世界の極地を舞台にし、寝袋や食料などを背負いながら、数日間かけ数百キロの道程を走り、タイムを競うレースで、“世界でもっとも過酷”といわれています。

そんな過酷なレースに、日本唯一のプロアドベンチャーランナーとして挑み続けているのが、北田雄夫さん。
現在好評発売中の書籍『地球のはしからはしまで走って考えたこと』は、北田さんが日本人として初めて世界7大陸を走破するまでや、その後、4大極地最高峰レース(※)に挑戦する様子を詳細に記録した、初の著書。

昨年はコロナの影響で挑戦予定のレースが中止・延期になりましたが、今年はいよいよ挑戦再開! 2月末からアラスカで開催される、「アイディタロッド・トレイル・インビテーショナル」の560キロ部門に参加予定です。そこで今回は、北田さんの新たなチャレンジを応援すべく、本の中から、4大極地最高峰レースのひとつ、2019年に走破したサハラ砂漠1000キロの「La 1000(ラ・ワンサウザンド)」への挑戦(単行本の7章)を、3回に分けてお届けします。

第1回「サハラ砂漠対策・人体実験」編、第2回「レーズ前半・トラブル続出」編に続き、今回はいよいよ最終回。「レース後半・命がけのゴール」編です!

※世界4大極地の最高峰レース走破とは?
地球上で人間が走れる4つの極地「暑い砂漠、寒い氷雪地、衛生環境の悪いジャングル、標高の高い山岳」で開催される最高峰レースをすべて走破すること。

●オーストラリアの荒野521キロを走り抜く「The Track(ザ・トラック)」への挑戦編 全3回はこちら→「準備編」「レース前半戦」「レース後半戦」

※書籍から一部抜粋・再編集しています。
(構成/よみタイ編集部)

「命とゴール」を天秤にかけ迅速に的確に判断する

足裏を中心に細心のケアが大切。マメの生じるリスクを回避していく。(写真提供/北田雄夫)
足裏を中心に細心のケアが大切。マメの生じるリスクを回避していく。(写真提供/北田雄夫)

(前回より続く) 

 6日目の22時50分。360キロのチェックポイント18に到着した。

 想定通り、足の裏が腫れて膨らんでいた。ここで準備していた0.5センチ大きいシューズに履き替える。これは計画通り。ぴったりのタイミングだった。もう少し足裏が腫れていたらシューズが窮屈になり、その圧迫で痛みやマメの生じるリスクがより高かったからだ。ここまでの6日間、毎日4時間ほどの睡眠をとり20時間を活動時間にあてた。なんとか体はもってくれた。

 経験でわかる。アドベンチャーマラソンで大切なことは、変化する事態に対して、常にその時のベストな判断を迅速にしなければならないことだ。どのくらい睡眠をとるべきか? その睡眠でどのくらい体力は回復しそうか? 水分はいつ、どのくらい摂るべきか? 疲労した足や体のケアは何をいつどうするのか? 暑さ、体力、下痢、頭痛、足裏の腫れ、筋肉痛、すり傷、メンタルの低下、眠気、空腹……それらすべての課題に対して、効果とリスクを常に考えて判断しなければならない。
 たとえば足裏のトラブルに対する効果とリスク。「順調に走れているから今は大丈夫」と思って、皮膚保護クリームの塗り直しや、休憩時に靴下を脱いで湿気をとるなどのケアをしないとする。この効果はケア時間が減り、少しでも早くゴールにたどり着けるかもしれないことだ。一方で、そのケアを怠ったことで、のちのち足がズルむけになって走れなくなるリスクがある。僕はそのふたつを天秤にかけるなら、リスク回避を重視する。だからレース中に時間がかかろうが、ケアは怠らない。

 熱中症と食欲減退のリスクを回避するためにも、引き続きあらゆる策を講じ続ける。もしかすると6日間で体も暑熱順化しょねつじゅんかして食欲減退も起きなくなったのかもしれない。しかし、小さな取り組みをやめると、再び暑さや栄養不足で倒れてしまうリスクがあるかもしれない。その取り組みをするかしないか、「命とゴール」を天秤にかけて判断する。

 自分の心に対しても同じだ。レース前は強い気持ちで臨むのだが、もともと強靭な精神力を持たない僕だ。過去に経験したことのない1000キロという距離を走っていると完全に心が折れてしまうかもしれない。そうなるともうゴールは不可能だ。だから時に弱音を吐き、時に自分を鼓舞する。限界ギリギリまで挑みつつ、致命傷だけは避け、コントロールできる余地は残しておく。

「それをやらなければのちのちどんなリスクがありそうか?」とまず想像し、そのリスクを絶対に避けるべきなら、労力や時間がかかろうが取り組む。常にそう考えるようにしている。

 この考えや判断は、アドベンチャーマラソンを通じてより磨かれてきた。常にリスクと隣り合わせの極限の状態では、冷静に、よりベターな選択が求められることを身をもって体験してきたからだ。さらにいえば、多少の痛みを伴おうが感情に左右されずに判断することも必要なのである。

 レース以外の社会でも、こうした判断の重要性は往々にしてある。
 僕はアドベンチャーランナーとして日本人初の7大陸走破を狙うため、かなり無理をして短期間で実行した。肉体的にはリスクがあるが、そうしないとほかの誰かに先を越される可能性があるからだ。理想とするプロアスリートとして生きるには、もう少し収入源や先の見通しをつけてからという選択もあった。だがプロアスリートになってみないと経験値は得られない。社会情勢やけがなどの要因で挑戦するタイミングを逃すかもしれない。常に効果とリスクを考え、リスクより効果があると思ったから、早くプロ化する道を選んだのだ。その判断が正しいかどうかはこれからわかるはずだ。

 チェックポイント19へは先に18に到着していたマレックと一緒に出発することになった。ライバルではあるがほかの選手と一緒に進めるのは気分が全然違う。孤独を感じないし、なによりコースのロスが少なくなる。
 特に会話することはない。だが、言葉を発しなくとも、心の中で互いに励まし合いながら進んでいけるのだ。
 
 そうしてここから3日間、時に目視できないほど互いに離れつつも、チェックポイントでの休憩時には再会し、540キロのチェックポイント27まで到達した。
 マレックは「体力の限界がきたのでここで少し休む」と言って眠りについた。僕は「これまで通りまた後で会おう」と言って先を急いだ。

 再びひとり旅が始まった。
 
 このころにはささいな試みの積み重ねの効果があり、食欲も体力も回復してきていた。それでも砂漠で毎日60キロ以上を進んでいるため、体の痛みはなくならない。砂丘を避けるために蛇行したりするので実際に走っている距離はもっともっと長い。序盤の区間は、GPS通りにまっすぐがんばって走った。でも僕より後ろに出発した選手が〝歩いて〞先に到着していたのだ。しかも45分も前に。僕はどれほどロスをしていたのか。それが積み重なっているのだから、相当な距離になっているのだろう。

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新刊紹介

北田雄夫

きただ・たかお
1984年生まれ、大阪府堺市出身。中学から陸上を始め、近畿大学3年時に4×400メートルリレーで日本選手権3位。
就職後は一度、競技から離れるも「自分の可能性に挑戦したい!」と再び競技を始める。
2014年、30歳からアドベンチャーマラソンに参戦。
17年、日本人として初めて「世界7大陸アドベンチャーマラソン走破」を達成。
現在は「世界4大極地の最高峰レース走破」にチャレンジ中。

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