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灼熱のサハラ砂漠1000km走破! 日本唯一のプロアドベンチャーランナーが384時間45分に渡る死闘で得たもの

チェックポイントで提供されるのはライスやパスタのみ。ここでも経験からさまざまな工夫をする。(写真提供/北田雄夫)
チェックポイントで提供されるのはライスやパスタのみ。ここでも経験からさまざまな工夫をする。(写真提供/北田雄夫)

つらさを吹き飛ばしてくれた、応援の力

 中間点の500キロを超えたあたりから、徐々にだが、サハラ砂漠にも、このレースにも慣れて変化が現れてきた。少しでもストレスを減らし快適に過ごせる工夫ができるようになったのだ。
 たとえば、チェックポイントで提供されるパスタやライスの味つけ。これは塩かケチャップの二択しかなく、ずっとそれで我慢していたのだが、ある時、持参していたレトルト牛丼をぶっかけて、牛丼パスタにしてみた。これが抜群においしいのだ。これで食のストレスが軽減された。

 ウェットタオルの使い方も変えた。それまでは一度使ったらポイントごとに捨てていたが、水を含ませればまだまだ体をふけるし、休憩時に濡らして足に巻いておけば、アイシングにも活かせることがわかった。少しでも火照った体を休めることができると、脳も安らぎ、休憩のたびに疲れをリセットすることができた。
 水も、当初は取り出しやすいようリュック上部に入れていたが、実は底に詰めておいたほうが揺れが少なくなり、同じ重さであっても肩を中心に体への負担が少なく走れることもわかってきた。
 長く走る秘訣はどれだけ負担を減らし、省エネルギーでいけるかなのである。アームカバーが上腕からずれ落ちてくる対策としてゴムで留めるようにした。「ずれを直す」という本当に数秒の負担なのだが、そんなことでも減らせると心身は楽になる。

 体も熱中症や下痢などのトラブルを一度乗り越えてきたことで、サハラ砂漠の灼熱の環境であっても体温上昇を防ぐ術やペース配分など、体調異常のリスクをコントロールできるようになってきた。

 少しずつだが「このままいけば完走できるかも」という見通しが見えてきた。
 しかし、先行する選手とは1日も差が開いている。今からどれだけがんばっても追い越すことは不可能に近い。つまり、僕に残っているのは自分との戦いだけということだ。それが精神的に一番つらかった。
 追いかける相手がいなければ、走っても走っても、何も変化のない終わりの見えない地平線が続くだけ。日中は暑さで倒れないようにすることだけ、夜は走りながら眠り落ちないようにすることだけで精一杯の戦いが続く。
 チェックポイントでは急いで食事をとって横になり、4時間の睡眠をとればどれだけ眠くても、つらくても無理やりに体を起こす。そしてまた1日中、痛みに耐えて走る。その繰り返しが、つらくてつらくて仕方がなかった。

 そんな孤独という言葉では表せないつらさを吹き飛ばしてくれた、予想もしていない嬉しい出来事があった。

 720キロのチェックポイントでのことだ。カメラマン大和田くんと日本にいる協力者が連携して数日ごとに行っていたフェイスブックでの現状報告に対して、日本からたくさんの応援メッセージをいただいていた、そのコメントを見ることができたのだ。

「雄夫、がんばれー! ずっとずっと応援してる!」
「あなたの一歩がみんなの勇気になってます」
「いつか自分がやってみたかったことを、本当にやっている人がいる。そのことだけで心が震えます」

 ずっと抑え込んでギリギリのギリギリで我慢していた感情があふれ出した。思わず涙がこぼれる。

「そうだ。僕はひとりじゃない。こんなにもたくさんの人に支えられているんだ」

 当たり前のことだけど応援の力は本当にすごい。
 学生の短距離選手時代から今までもたくさん応援してもらってきたが、実際に世界の果てでギリギリになってひとりで挑んでいる極限の状態で応援してもらうと、心にズドンと響く。どこにあったのか自分でも驚いたのだが、がぜん力が湧き出てきた。自分を信じて、そして応援してくれている人を信じて、自分の奥底に眠る未知なる力を出し切る。必ずゴールする!

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新刊紹介

北田雄夫

きただ・たかお
1984年生まれ、大阪府堺市出身。中学から陸上を始め、近畿大学3年時に4×400メートルリレーで日本選手権3位。
就職後は一度、競技から離れるも「自分の可能性に挑戦したい!」と再び競技を始める。
2014年、30歳からアドベンチャーマラソンに参戦。
17年、日本人として初めて「世界7大陸アドベンチャーマラソン走破」を達成。
現在は「世界4大極地の最高峰レース走破」にチャレンジ中。

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