2023.11.2
午前2時のコンビニで過去問コピーを取る夫、そのとき専業主婦の妻は……。【おおたとしまさ新刊『中受離婚』一部試し読み】
堪忍袋の緒が切れた。 「いい加減にしろ!」
家庭の中で大きな地滑りが生じたのは小五の一一月のことだった。
日曜日の夜、バスケチームの幹事会に参加していた穂高が帰宅すると、その日受けた組み分けテストの自己採点結果を前にして、杏が大声でムギトを罵倒していた。
「なんでこれしかとれないの?」
「理由を説明しなさい! それができなかったら改善のしようもないでしょ」
「ちゃんとやってるならこの成績でもママは怒らないよ。でもあんたはさぼってばかりだったじゃん。ユウマくんは朝早起きして勉強してるってよ。カリンちゃんは毎日自習室に通ってるってよ」
「W学院に行きたいんでしょ。でもこれじゃ、W学院どころか、どこも受かんないよ」
「やる気がないんだったら、中学受験なんてやめちゃいなさい。ママは全然構わないよ。ていうか、いまのあんたに中学受験をする資格なんてないんじゃないの? 自分ではどう思ってるの? ねぇ、泣いてばかりいないで、ちゃんと答えて!」
何を言われても、ムギトはさめざめと泣くばかりである。
杏がしっかりムギトの中学受験にかかわったうえで、結果について不平を言うならまだわかる。でも手を貸すようなことは何もしていないのに、結果だけを見てこれほどまで責めるのは卑怯じゃないか。そうは思いつつ、ひとまず穂高は黙ってなりゆきを見守る。
怒りが収まらない杏は、ムギトの両腕をぎゅっとつかんで、「このまえあなたは、悪い点だった算数のテストを隠してたでしょ。ママ、見つけたんだからね。そうやって自分をごまかしてばかりいるからこんな点しかとれないのよ!」と、妹も見ている前で過去の話まで持ち出して糾弾している。もしかしたら、テストの一件を穂高にも伝える意図があったのかもしれない。
恐怖でおののくムギトに杏は容赦なくたたみかける。
「自分でできないんだったら、私が勉強を管理しようか」
やるつもりもないのに、嫌みとして言っているだけの杏の言葉が、穂高の堪忍袋の緒を切った。
「いい加減にしろ!」
あらん限りの大声を出してダイニングテーブルを叩いた。マンションの隣の家まで聞こえているかもしれない。
以降、ムギトの受験は、夫婦はどうなってしまうのか!? 続きはぜひ書籍でお楽しみください
【第二章試し読み】 娘の部活のために中学受験を決意! 伴走する妻と受験への出費をいちいち渋る夫……。
【第三章試し読み】 東大はじめ高学歴出身家系である母が、父を透明人間のように扱うようになって……。
『中受離婚 夫婦を襲う中学受験クライシス』大絶賛発売中
「合格から逆算し受験をプロジェクト化する夫、わが子を褒めることができない妻」、「受験への出費をいちいち渋る夫、受験伴走も仕事も家事、育児もワンオペする妻」、「夏期講習よりもサマーキャンプを優先したい夫、夫を透明人間のように扱う妻」ーー子どもは無事に合格したものの、受験期間のすれ違いから破綻してしまった3組の夫婦。徹底取材をもとに、「夫」「妻」「子」それぞれの立場から語られる衝撃のセミ・フィクション! 教育ジャーナリストとしてだけでなく、心理カウンセラーとしての経験を持つ著者ならではの、わかりやすい「解説」も必読。
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