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マウンテンバイク、音楽、カフェ……趣味を束ねて、楽しく生きていく達人とは?

浮き沈みはあるけども、趣味を束ねて生きていく

 ワークスチームのメカニックからオーストラリアでのサーフィン放浪生活を経て、カフェ・クラブ経営者、DJを経験し、現在はマウンテンバイクのプロショップ経営者という経歴の冨田さんは、一見すると「いきあたりばったり」に見えるかもしれません。しかし、冨田さんの人生は、以下の言葉で一貫しています。

「自分も楽しいし、お客さんも楽しんでもらえれば。みんなの人生が楽しくなったらそれが一番いいかなと。日本人って働いちゃうじゃないですか。それをいかに緩めるかというところで、自分たちがやって、それを見て、うわ、楽しそうだなって来てもらえて、それで一緒に楽しめたら。それで、その人の人生がちょっとでも豊かになればええなというのが、自分たちがやっていること」

 バイクにカフェ、音楽、自転車と自分が「楽しい」と思えることをライフスタイルの軸に据えて、自分が楽しんでいく中で見つけた仲間たちと、楽しみを共有できるようなビジネスを手掛けていく。ここで大事なことは、「楽しい」ことを自ら体現していく(performative)ことです。実は、これが「そこそこ起業」にとって大事なことなのだと、指摘してくれている論文があります。

Dobson, S., & McLuskie, P. (2020). Performative entrepreneurship: identity, behaviour and place in adventure sports enterprise. International Entrepreneurship and Management Journal, 16(3), 879-895.

 英国圏のMTBビジネスの調査を行ったDobson & McLuskieは、MTBに代表されるアドベンチャースポーツの分野では、いわゆる戦略的な計画に基づいた、市場への参入や競争という観点から企業家活動は展開されていないことを指摘しています。むしろ、MTBのユーザーが集まる場所を作り、自らのパフォーマンスを披露していくことで、起業の機会を掴んでいくというのです。彼らはこのような起業スタイルは、鵜の目鷹の目でビジネスチャンスを探していく典型的なビジネスマンとしての活動というよりは、MTBに乗ることを自己表現としていく、経営者とお客双方のアイデンティティが満たされていく活動として理解すべきであると述べています。

 その意味で、冨田さんのキャリアは、音楽とMTBというまさに「パフォーマンス」の場を作っていくことで、自分のライフスタイル=人生の楽しみを表現していく、ちょうどよいスケールのビジネスを作り続けたものであると言えると思います。

 もちろん、読者の中には「そんなことで生きていけるのか?」、「あまりにもいきあたりばったりすぎでは?」という疑問を持たれる方も、いらっしゃるかもしれません。実際、私自身も、「神戸で自転車屋は、難しいのではないか?」と思いました。

「浮き沈みはあるんですよね。コロナが来て、世界的な自転車ブームがうまれましたけどね。今はちょっと落ち着いて。また少し厳しい状態に陥っているんですけど。うちはスコーンとカフェがあるから、不思議なことに自転車がだめになるとスコーンが、スコーンがコロナで打撃をうけたら自転車がカバーしてくれている。今の時代、何があるかわからないから、何個か柱がいるかなという気がします。昔からね、商売とかやっている人は、その辺をちゃんとやっていますよね」

 一軒目のカフェがビルの取り壊しで閉店になった際、二軒目のクラブが生活を支えてくれたように、冨田さんの起業スタイルはいきあたりばったりに見えるようで、自分が趣味を楽しんでいく中で作った縁を生かしながら小さな「稼ぎ」を組み合わせいくことがリスクヘッジになっていると言えます。それこそ、冨田さんがMTB以外にも楽しんでいる、サーフィン、スキー、釣りなどの多様な趣味で結んだ縁は、将来的にはどこかのタイミングで「そこそこ起業」という形で花開いていくのかもしれません。もちろん、人に楽しんでいるところを見せて、商売にまで昇華できるほど趣味を極めて行くことは、楽しみつつ努力を怠らない姿勢が必要とされます。しかし私達も、趣味と仕事を分離せずに「ライフスタイル」という軸を通した時、実はいろいろな「稼ぎ」を生み出し、人生を楽しみながら、生きるのに十分な収入を得ていくことも可能であることを、忘れてはならないと思います。

「幸せをとどける人だよね」

 取材が終わった後、冨田さんを紹介してくれた松嶋先生はそう言いました。「自分が楽しむことが、みんなの幸せにも繋がる」と断言できる人生を送ってきたからこそ、冨田さんの生き様はカッコいいと考えさせられました。

 連載第8回は10/17(月)公開予定です。

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高橋勅徳

たかはし・みさのり
東京都立大学大学院経営学研究科准教授。
神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了。2002年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。
専攻は企業家研究、ソーシャル・イノベーション論。
2009年、第4回日本ベンチャー学会清成忠男賞本賞受賞。2019年、日本NPO学会 第17回日本NPO学会賞 優秀賞受賞。
自身の婚活体験を基にした著書『婚活戦略 商品化する男女と市場の力学』がSNSを中心に大きな話題となった。

Twitter @misanori0818

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