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経営学者、キッチンカーでラーメン屋になる? 屋台が人間を解放してくれる理由とは

「ラーメン高橋」の夢、頓挫する

 なぜ、私がキッチンカーでラーメン屋をやろうと思ったのか?

「いっぱい作って、食べさせたい」という欲求があるからというのも確かですが、キッチンカーだと飲食店が潰れる最大の原因である固定費が大幅に削減できるからです。最近でも、芸人プロデュースの焼肉屋騒動で、高すぎる家賃と設備投資費が話題になりましたよね。店舗を借りて、店の規模に合わせて設備投資を一回やってしまうと、それを回収するまで撤退することもできないという地獄が待っています。

 ところがキッチンカーなら大した設備投資も必要ないし、最悪、営業に飽きたり面倒になっても撤退は簡単で、車自体は自家用車として利用は可能です。どうせ車を買い換えるつもりならこれでいいじゃん! その経験をもとに、「そこそこ起業」の論文も一本かけるので、一石三鳥! じゃあ店名は、「ラーメン高橋」でやってみるか!

 そう考えた時期が、私にもありました。

 いざ、実際にやろうと調べていくと、最低でも以下の手続きをクリアせねばならないようでした。

①食品衛生責任者証の取得……各自治体で開催されている衛生責任者講習会(合計6時間)を受講し、テストをクリアすれば取得できます。これはなんとかなるでしょう。

②出店場所の確保……屋台・キッチンカーが出店可能な場所は限られているのですが、どこが出店可能なのかの情報がなかなか見つからない。漁港の中で屋台を出しているケースを見た記憶がないので出店禁止地域なのかもしれないし、出店可能だとして所有者に営業することについて許可を得ておく必要があるでしょう。この場合、漁協に相談すればいいのか、漁港は自治体の持ち物だから行政に許可を貰う必要があるのでしょうか?

③屋台・キッチンカーの営業許可の取得……とりあえず出店場所が決まったとしたら、出店予定地の「販売する地域を管理している保健所」に届け出をして、審査をクリアしてようやく許可を取得することができます。提供メニューによって、給水タンクのサイズから車内のシンクの数まで細々とした規則があるようで、キッチンカーを作る前に保健所に色々相談したほうが良さそうです。

④仕込み場所を設置と営業許可の取得……実は、キッチンカー内で食材を加工することは、異物混入や衛生管理のため禁止されています。ラーメンのように仕込みが必要な食品を提供するためには、「固定の店舗や施設」の営業許可を取得せねばなりません。つまり、自宅以外に作業場になる場所を借りなきゃ駄目になる。

 手続きの煩雑さについては、根気強さと気合の問題でしょうし、最悪、手続きを代行してくれる業者さんに依頼しても良いでしょう。ただ、どうにもならない壁が、②出店場所の確保と、④仕込み場所の設置です。この際、営業可能な場所が少ないのはどうしようもないと受け入れたとして、「どこだと出店可能なのか」についてはおそらく役所に行って担当部局に問い合わせて、出店場所の地権者なり責任者に問い合わせて交渉し、出店先を確保しないことには、どういう営業許可を取るためにどういうキッチンカーを作る必要があるのかについての、相談にすらたどり着かない。

 様々な困難を経て、出店場所を確保した上で大問題となるのが、仕込み場所を設置した上で、営業許可を取る必要があること。どうやら、衛生管理が可能な自宅以外の固定の施設を用意する必要があるみたいです。

 確実かつ手間を省いてキッチンカーを営業するなら、出店可能な場所で車一台分くらいの土地を購入してキッチンカーの営業許可をとり、仕込み場所を自宅と別に用意してそちらでも営業許可をとるという形になりそうです。あれ、これって、普通に固定店舗の飲食店を開業するより、コストがかかってしまうのではないでしょうか?

「ラーメン高橋」の夢は、儚くもこうして潰えたわけです。

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高橋勅徳

たかはし・みさのり
東京都立大学大学院経営学研究科准教授。
神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了。2002年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。
専攻は企業家研究、ソーシャル・イノベーション論。
2009年、第4回日本ベンチャー学会清成忠男賞本賞受賞。2019年、日本NPO学会 第17回日本NPO学会賞 優秀賞受賞。
自身の婚活体験を基にした著書『婚活戦略 商品化する男女と市場の力学』がSNSを中心に大きな話題となった。

Twitter @misanori0818

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