よみタイ

歩く? 走る? 目的なくひたすら進むと見えてくる町の姿 第4回 歩け歩けの大阪&京都

京都で北から南へ、鴨川を下る

記事が続きます

 京都も碁盤の目で歩きやすい。なにしろかつての平安京だ。平安時代はほとんどの人が歩いていたはずなので、中心部は徒歩サイズである(WEBで平安京の地図と現在の京都市街地地図を見比べてみると、面白い)。ここでも、五条通をまっすぐ、たこやく通をまっすぐ、えびすがわ通をまっすぐとか、ただただ歩くをよくやる。
 そして過日、いつかやってみようと思っていた、鴨川を北から南に、ただ歩く、もやってみた。
鴨川はちょうどまちやなぎありの、鴨川デルタ(三角)と呼ばれる飛び石があるところで、賀茂川と高野川に分かれる。ちなみに、ここから鴨川の表記は賀茂川になる。
 そこより少し北、賀茂川側にあるコーヒーショップ『WIFE&HUSBAND』からスタートすることにした。理由は、ここのコーヒーとトーストが好きだから。小さいけどとっても上手に作られた店内の窓側のカウンターでコーヒーとトーストをいただく。いやはや、トーストがほんと理想の焼け具合。ちなみにこちらのお店では賀茂川ピクニックセットを貸してもらえるので、川辺でコーヒーも可能。
 さあ河川敷へGO。そしてもう一つ寄り道して下鴨神社へ。正式には賀茂御祖神社。考えてみたら行ったことがなかった。

記事が続きます

下鴨神社で美人になる?

記事が続きます

 川を渡り、下鴨神社の本殿を目指していたら、その手前に摂社の一つ、河合神社があった。女性守護、日本第一美麗神とある。興味がわいて境内に入ってみた。ご祭神は神武天皇の母、下賀茂神社の東殿に祭られている玉依たまより姫命ひめのみこと。こちらの絵馬にちょっとびっくり。鏡絵馬という手鏡の形に、目、眉、鼻、口が描いてある絵馬で、各自これにいつも自分が使っている化粧品でメイクをして納めるという。だから納められている絵馬はいろんな顔だ。そのための鏡絵馬お化粧室があって、そこで自由にメイクする。美麗祈願の神社なのね、ユニーク。
 そして本殿へ行って気づいた。本殿は西殿と東殿があり、その東殿に祀られているのがこの方、玉依媛命。彼女が鴨川でみそぎをしているときに一本の矢を拾ったら、これが美しい男神になり、結婚され、子宝にも恵まれた、という神話から、縁結び、子育ての神様として信仰されているそう。
 それもあってか、とにかくお守りがかわいい。レースで包まれたちょっとゴスロリっぽい(ごめん!)オリジナル度の高いものや、大正ロマン風の着物柄のもの、デニム製のもの、とさまざま。やっぱり珍しいなと思ったレースのお守りを自分へのお土産にした。  
 ちなみにお守りはいつも買った時に持っていたバッグに、内側に向けてつけている。前は買ってどうする? と迷っていたけど、今では家中のバッグにさまざまな神社のお守りがついています。

川床のある建物が並ぶ鴨川沿い
川床のある建物が並ぶ鴨川沿い

いよいよ鴨川をひたすら南へ、歩く

 再び川へ戻り、鴨川デルタと呼ばれるふたつの川の分岐点へ。出町柳の駅からも割とすぐだ。出町柳と言えば『出町ふたば』の大福、じゃなくて豆餅。私は11月ごろに出るここの亥の子餅が好き。ああ、栗餅とか草餅もいいな、母とも並んだなーと思いながら、今回はがまん。
 鴨川デルタの飛び石を渡っていたら、写真をとってくれと頼まれた。タイ? と思ったら、ベトナムの方。2年ほど日本で働いてベトナムに帰るのだと言う。以前、大きな農家の取材で出会ったベトナム人技能実修生を思った。
 100万ドルの笑顔、真っ白な歯、洗い立てのシャツ、きっと彼にとって実りある日本での2年だったと信じよう。私も写真をお願いした。後ろ向きがいいとポーズをとったら、『えーなんでやねーん』と笑われた。
 その笑顔を見ていたら、中島京子さんの小説『やさしい猫』を思い出した。スリランカ人の恋人に不遇が重なり難民収容所に入れられ、なかなか出られない、そして結婚もできない、あまりの理不尽さに悔しくなる話。ハッピーエンドを願いながら読んだら、そうなったからよかったけど。どうか、日本を好きになって帰るのでありますように。

ベトナムの子にあった鴨川
ベトナムの子にあった鴨川

河川敷を私とふたりでただただ歩く、

 鴨川デルタのところが賀茂大橋、南に下る順に、荒神こうじん橋、丸太町橋、二条大橋、御池大橋、三条大橋、四条大橋、団栗橋、松原橋、五条大橋、正面橋、七条大橋、京都駅に近い(といっても駅まで1キロ弱)塩小路橋、東山橋、すぐ横の九条跨線橋、十条のとう橋と続く。
 今日の目標は、その陶化橋にほど近い、ザ・レインホテル京都。前に一人で泊まって、とてもすてきだったのだ。あそこのカフェでゴールワインを1杯のむ。
 しかしスタート地点からだと9キロ以上、10キロ近いのかな?まだまだあるな、これ遠足か?と思いながら、歩く。
 御池大橋あたりまでは岸辺が広い公園のようになっている。『鴨川沿いの物件は大変な値段よ、特に二条あたり』と京都の友達に聞いていた。たしかにステキなマンションが並ぶ。毎日この景色が見えたらいいな。ホテル・リッツカールトン京都もさすがにべスポジにある。
 数十羽の鴨が集まっていて、なにごと? と思ったら、おじいさんが岸で餌を蒔いていた。スーツを着た紳士だ。ひとしきり餌やりが済むと「今日はこれでおしまい」と言って去っていった。
 人は誰かに餌をあげたいのかもしれないなと、また思う。以前、ホームレスのおばあちゃんがぼろぼろの姿なのに、鳩に餌をやるのを見かけた。誰かに助けてもらうばかりだとやっぱりつらい、人は自分がどんな状況でも、誰かになにかをしてあげたいんだろうか、と思った。『人に何かしてあげられる人は幸せ』と、子供のころから身体が弱かった叔母が言っていた。
 川辺の広場になったところでは、子供たちと犬が走り転がって遊んでいる。ベビーカーを押す若いふたり。ランナー、制服のカップル、何もしないでベンチにただ静かに座っているおばあちゃん、杖をつきながら散歩する母に似た人、気づいたら歩きながら涙が止まらなくなっている自分がいた。泣きたかったのか? 私。

記事が続きます

これも鴨川、あれも鴨川

 三条大橋や四条大橋では橋の上の喧騒を感じながら歩く。河川敷に座っているカップルは不思議なことにほぼ等間隔。間に割り込んで座ってみたくなるけどやめておいた。
 松原橋までくるとぐっと人が減る。立ち食いソバのユニークな店『SUBA』や、最近お気に入りになったビストロ『The sunset beach』があるなあ、と誘惑に駆られて挫折しそうになる。
 心なしか川幅も広くなり、かかる橋にも車がびゅんびゅん。河川敷は歩けるように整備されているが、寂しげだなあ。これも鴨川、あれも鴨川か。
 七条大橋をすぎると、急に心細くなった。JR京都駅からの列車が鉄橋を通る音がなんだか怖い。人もいなくて、河川敷も石がゴロゴロ。旅人が勝手に思う京都らしさはなくなった。これも鴨川、あれも鴨川。
 日焼け止めを塗り忘れた顔に夕陽の直撃を受けはじめ、いよいよ挫折。ゴール予定だった陶化橋の3つ手前、塩小路橋から上へあがり、京都駅方面へ。新幹線口から近い『ALKAA』があるか!と思い、カウンターで味わう美味なる自然派ワインとカヌレを夢想しながらあと一息、ひたすらに歩いた。

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
今回登場した店舗・ホテル(営業時間・定休日は変更の場合があります。お出かけの際には事前にご確認ください)

●うどん讃く
〒553-0003 大阪府大阪市福島区福島2-8-3
TEL 06-6455-6613
営業時間 7:00-9:45,11:00-16:00
定休日 火曜日

●麒麟堂
〒541-0055 大阪府大阪市中央区船場中央4-1-10 B1
TEL 070-8390-6363
営業時間 16:00-22:30(月曜日~金曜日)15:00-22:00(土曜日・日曜日)

●WIFE&HUSBAND
〒603-8132 京都府京都市北区小山下内河原町106-6
TEL 075-201-7324
営業時間 10:00-17:00(ピクニック3:00LO、カフェ4:30LO)不定営業

●出町ふたば
〒602-0822 京都府京都市上京区青龍町236
TEL 075-231-1658
営業時間 8:30-17:30
定休日 火曜日

●ザ・レインホテル京都
〒601-8025 京都府京都市南区東九条柳下町67−1
TEL 075-606-1971

●SUBA
〒京都府京都市下京区木屋町通松原上ル美濃屋町182-10
TEL 075-708-5623
営業時間 12:00-23:00
定休日 不定休

●The sunset beach
〒600-8016 京都府京都市下京区材木町423−2
TEL 080-4914-8949
営業時間 18:00-23:00
定休日 日曜日・月曜日

●ALKAA
〒601-8003 京都府京都市南区東九条西山王町15-7
TEL 070-9017-1507
営業時間 14:00-24:00 (店休日明けは18:00-24:00) 不定休

次回は5月28日(火)公開予定です。

記事が続きます

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

関連記事

新刊紹介

山脇りこ

料理研究家。東京都内で料理教室を主宰。長崎県の日本旅館に生まれ、四季折々の料理に触れながら育つ。旬の素材を生かした野菜料理や保存食が特に得意。食いしん坊の旅好きで、国内外の市場や生産者めぐりがライフワーク。特に台湾はガイドブックを刊行するほどのリピートぶり。著書に『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)『50歳からはじめる、大人のレンジ料理』(NHK出版)『食べて笑って歩いて好きになる 大人のごほうび台湾』『いとしの自家製 手がおいしくするもの。』『一週間のつくりおき』(ぴあ)『台湾オニギリ』(主婦の友社)など多数。

http://www.instagram.com/yamawakiriko/

週間ランキング 今読まれているホットな記事

      広告を見ると続きを読むことができます。