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『成瀬は天下を取りにいく』が背中を押した! 滋賀が気になりすぎて【第5回 琵琶湖25時間の旅<前編>】

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近江八幡へ

 クルーさんに盛大に見送られ、船を降りたら、10時50分。まだ午前中だよ、えらい! と自分をほめる。
 次の目的地は初!近江八幡だ。例の鮒ずしがあるという道の駅にも寄りたいし、せっかくならたねやさんの「ラ コリーナ」にも、そしてやっぱり近江商人の豪邸が残る古き街並みも歩きたい。
 ちなみに、近江八幡も水郷で、船頭さんが漕ぐ和船にのってめぐることができる。桜と和船の写真を見て、ええなあ、と思っていた。しかし調べたら、船は10時と午後3時出発。ミシガンとかぶるし、3時だとその後の予定とかぶるので泣く泣く断念。旅は選択の連続だ(大袈裟です)。
 近江八幡へは大津港から近い京阪電車で、びわ湖浜大津→膳所(成瀬さん在住)へ行き、JRに乗りかえていく。大津港から1時間ほどかかった。
 降りたら、タクシーでラ コリーナへ。ラ コリーナは、日本中に店を構える菓子舗「たねや」「クラブハリエ」のフラッグシップ店。和菓子店のたねやさんとバームクーヘンが代表的なクラブハリエさんの商品が、食べられて、買える、と聞いていた。
 できたてのバームクーヘンや焼き立てのカステラ、ここだけのパフェ、限定の菓子などなど。そこまで甘いものに執着がない私だけど、せっかく近江八幡に行くならと、訪ねたのだ。
 が……敷地に入った瞬間に、いやはやこれはただのフラッグシップ店ではないと、どーんと胸を突かれた。可憐なれんげがあるがままに咲き乱れ、菜の花も自由にのびのびする庭。これを囲むように立つ建物はいずれも屋根の上まで植栽が育てられ、奥には森、丘。働いている人はきりりといい顔をしている。
 うまく言えないけど、ここにはたぶん志がある。思想を形にしているんだ、一体どんな会社なんだ?と、はじめて菓子ではなく会社に興味がわいた。

 迷った末に、珍しい桑の葉が練りこまれたカステラを買い、カフェでは焼きたてのバームクーヘンと紅茶のセットをいただいた。ふわっふわで温かい、ほっこりする。
 そのカフェで、おそらく手が空いたとみられる店員さんが中庭を臨むガラスについた小さな汚れをきゅっきゅと拭いていた。仕事を見つけて自主的に笑顔でやるんだな。和菓子のショップでは、商品を並べていた若い店員さんに栗饅頭について質問したら、さらさらと答えてくれた。ちなみに全国の店舗では白あんが標準の栗饅頭ですが、ここには小豆餡の栗饅頭があります。
 みんな、この会社、この場所、商品を愛し、プラウドしているんだなー、どうしたらこういう職場になるんだろう?
 カフェでラ コリーナのHPを見てみた(遅い、よいこは行く前に見ましょう)。たねやグループのCEO山本昌仁さんの言葉があった。全文唸ったけど、少し抜粋したい。
「~お菓子屋の道というのは売り買いだけのことではありません。売り買いは結果であって、それが成り立つために、地域があり、原材料をつくる産地があり、きれいな水があり、それらをつなぐ心がしっかりしていることが最も大事です。(中略)この地域で商売をさせてもらっているのもこの地域の方々のおかげ。もっと言えば、神様のおかげです。~」
 またこんな言葉もあった。
「自分がいつか死んだときに、残された子どもたちが、この近江八幡に生まれて良かったと思えることを、今やりたいのです。」  
 自ら田を耕し農園でさまざま育てているという。また植樹も行っているそうだ。
 近江と言えば、近江商人。「三方よし」とは小泉純一郎元首相の発言で有名になったけど、もとは近江商人の言葉だ。三方とは「売り手」「買い手」「世間」を指し、売り手と買い手がともに満足し、さらに社会貢献もできるのが良い商売であるという考え方だ。
 また近江商人の「商売十訓」の中にはこんな言葉もあった。「無理に売るな、客の好むものも売るな、客の為になるものを売れ」ここには買い手よしの心がある。長く続く商いの真髄なのかもしれない。

近江商人のふるさと
近江商人のふるさと
「ラ  コリーナ」のバームクーヘンセット
「ラ コリーナ」のバームクーヘンセット

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鮒ずしと野菜

 午後1時、ラ コリーナを出てプラプラと15分ほど歩いて、お目当ての「JAグリーン近江 きてかーな」へ。ここにあの頂いた鮒ずしがあるらしい。道の駅かと思っていたら、農協さんの直売所だった。
 いや、もうここがお宝の山!減農薬のハーブや米、すばらしいいちごや柑橘類、もちろん、鮒ずしも。とにかく充実の直売所なのだ。しかもここは関西、今日発送すれば明日には東京に着く。米、ミント、木の芽、パクチー、アスパラ、赤里芋(里芋のうち、芽が赤い種類、赤目大吉芋)を東京へ送り、そして鮒ずしも物色した。あいにく彼女にもらった鮒ずしはなくて、他に4、5種類ある中から、迷いに迷う。通りがかりのおばさま2人組に、どれがいいですか?と聞くと、「これはね、好みなんよ」「酸っぱいのすき?」「かなり塩辛いよ、わかっとるね?」などと聞かれ、私の答えを元にすすめてくれた「魚元淡水」さんのものを購入した。小さめ5切で500円。
 ここから、大切に守られている名だたる近江商人の邸宅が並ぶ新町方面へ。近江八幡市立資料館や旧伴家住宅などを回った。現在、どのような事業をされているかも、家の前の解説の立て札に書かれていて興味深い。日本橋(東京)にビルや本社を持つ家が多いのねーと思いながら。
 駅までは歩くと30分以上かかるので、バスを待つことにした。旅先でひとりで歩いていると、むくむくと前向きになり、勇気がわいてくることもあれば、無性に凹むこともある。この時は、素晴らしい野菜や鮒ずしをゲットしたにもかかわらず、後者だった。悲しかったことを思い出すのをやめられず、とぼとぼ。負の連鎖にぐいぐい引き込まれながら1時間に2本のバスをただ待つ。すると近くの学校から「翼をください」のコーラスが聞こえてきた。可憐な歌声で、大空に翼を広げて飛んで行きたいと、女子たちが歌っている。全員が前を向いて歌う彼女たちのビジュアルが勝手に頭に浮かんできた。一生懸命歌うこの歌声にものすごい元気をもらった。ありがとう。

伴家住宅
伴家住宅
近江八幡の骨董屋さんの骨董招き猫
近江八幡の骨董屋さんの骨董招き猫

午後3時半、近江八幡から再び大津へ

 この日、私は4時までに大津に戻らなければならないシンデレラだった。楽しみに予約しているイベントがあるのだ。それは思いがけず発見した「大津商店街ガイドツアー」。宿泊するホテルのサイトを見ていたら、「希望者に地元の商店街を案内するツアーをやっています」とあって、これだけは早々に予約していたのだ。
 3時50分、なんとかぎりぎりセーフ。ホテルのレセプションへ急いだ。行ってみたら、なんと、参加者は私ひとり。マンツーマンなのー?ドキドキするわ。だったらやめた方がいいかも?とひるみそうになったが、どうやら案内してくださるのは、ニコニコやさしそうな少し先輩の女性。よし、いえいっ!勢いをつけて「よろしくお願いします」と大きな声であいさつした。
 いやー、結論から言うと、これがものすごおおおく楽しかったのだ。ビバ!商店街ツアー。
 琵琶湖25時間旅、のこりの18時間は、次回!(え、まだ7時間くらいしかたってないのか!)

続きは次回、後編へ。

今回登場した店舗(営業時間・定休日は変更の場合があります。お出かけの際には事前にご確認ください)

●琵琶湖汽船(ミシガンクルーズ)
https://www.biwakokisen.co.jp

●ラ コリーナ近江八幡
〒523-8533
滋賀県近江八幡市北之庄町615-1
TEL 0748-33-6666
営業時間 9:00-18:00(フードコート10:00-17:00)

●JAグリーン近江 きてかーな
〒523-0821
滋賀県近江八幡市多賀町872
TEL 0748-32-0111
営業時間 9:00-18:00
定休日 水曜日

次回は6月25日(火)公開予定です。

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山脇りこ

料理研究家。東京都内で料理教室を主宰。長崎県の日本旅館に生まれ、四季折々の料理に触れながら育つ。旬の素材を生かした野菜料理や保存食が特に得意。食いしん坊の旅好きで、国内外の市場や生産者めぐりがライフワーク。特に台湾はガイドブックを刊行するほどのリピートぶり。著書に『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)『50歳からはじめる、大人のレンジ料理』(NHK出版)『食べて笑って歩いて好きになる 大人のごほうび台湾』『いとしの自家製 手がおいしくするもの。』『一週間のつくりおき』(ぴあ)『台湾オニギリ』(主婦の友社)など多数。

http://www.instagram.com/yamawakiriko/

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