2024.2.27
ひとり鮨をキメる、そして明石の君を思う 第2回 明石
明石駅までは神戸三ノ宮駅からJRで15分ほど。ひとり鮨、明石! と決めてから2年ほど(準備期間長っ)、インスタや雑誌で、明石、鮨、とあればグーグルマップに保存してきた。その数、10軒ほど。この中から、握りと店内の写真、クチコミ、店のロゴなどを見て、3軒に絞った。余談ですが、店のロゴって、心意気、こだわり具合が出ると思う。自分と好みが合うかも案外ロゴでわかる。
さて……と熟考して予約したのが、駅から海に向かって歩いて20分ほどの「浦正鮨明石本店」。ランチのお客さんが一段落する時間&昼網狙いで、13時に。
入り口の前で汗を拭いて、思い切って引き戸をあけたら満席?!「ひとりで予約した山脇ですが」と言うと、死角になっていたカウンターのいちばん奥に通された。よかった、目立たない。しかし、え、ひとりなの? という目線はきたーっ。気のせいかな。
お願いしたのは、明石浦尽くし、という握りのコース。明石の酒蔵の冷酒も頂きます。
まず昼網のさわら、待ってました! 明石だこ、あこう、うんまい!
あこうとは、きじはたのこと。草間彌生デザインか? って感じの赤いドットがある魚だ。夏の瀬戸内を代表する魚と聞くけど、ふるさと長崎でも、薄造りや煮つけを食べた。なにしろ西の魚のイメージ(最近は北陸でも揚がるそう)。透き通った白身、血合いはほぼわからないくらいで、美しい。よほどいい状態だったのだろうなー、厚めに切られた白身が、たまらん。
そしてしまあじ。やはり身が厚めで、脂がのりすぎていない好きなタイプ。実は年末に行ったニュージーランドでも食べて、ああ、しまあじって世界中を魅了しているのねーと思った。ひらまさとか、しまあじとか、上品な青魚チーム、大好物。
鱧は韓国済州島のものが最上品と聞いた。この日の鱧も淡路のものではなく韓国から。フィナーレは伝助あなご。だいたい魚の旬というか、おいしい時期はいちばん脂がのる時期をさすことが多いが、あなごは逆ですね。淡白な方が好まれるから、夏がいい。アナゴと言えば明石。道すがら煮あなご屋さんもたくさん見かけた。1年じゅう揚がるそうですが、この伝助あなごってやつは播磨灘で獲れた雌で、真あなごの3~4倍の大きさらしい。よく言う、とろけるあなごではなく、食べ応えのある、身に味のあるあなごだった。
しかし、実はいちばんびっくりしたのが、由良赤うに。大将によれば、淡路島沖で7月中旬から9月末の短い期間にとれるうになんだそう。今日、明日で今年のシーズンは終わりだと言う。
子供のころ、うにが割と身近に豊富にあって(長崎自慢です)私は“うに執着”がない。というか生意気承知で正直に言えば、抜群においしいうにしかいらないぜ、と思っている。なのに、この由良赤うにには心底感動した、泣けた。甘いだけじゃない、うま甘い。磯の香りのいいところだけが詰まっていて、肌感もトルゥンときれい。何を食べて育ったうになんだろう?と。北海道の昆布の香り(時に匂い)がするうにとは全く違う。
思わず、1カン、最後に追加をお願いした。う、うまし……ああ、うにに悶えるなんて。
「このうに、たまらないでしょ?」
うにゃ? 話しかけてきたのは、数席おいた先に座る女性だった。
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やりたいことはすぐにやらなあかん
いつのまにか、カウンターのお客さんは減っていて、数席空いた先にいたのが同年代と思しき女性二人組。「おひとりで来てはるんですか? かっこいいです。」と。
いやいやいや、生まれて初めてひとりでお鮨を食べています、と脳内で。あ、しかしここは関西と思いなおし、一拍おいて「実は私、今日ひとり鮨デビューしたんです。一度やってみたくて」(てへへ)と言ってみた。
すると「わー、いい、憧れます。私……ちょっと病気してしまって。いろいろ迷惑かけて、退院してやっと少し元気になって、ここのウニが食べたい! って思って、友達に付き合ってもらって来たんです。けどな、ひとりでも来れるようになりたいと思ってて。そういうのを楽しめるようになりたいなって、入院中に思ったんです。やりたいことはすぐにやらな、と」と最後はつぶやくように。
うん、そや、そやで。やりたいことはすぐやろう、と自分にも、今度は本当に脳内だけで。病気はしてしまったのでなく、たまたまそうなった、あなたはなんも悪くない。ひとり鮨おすすめするでー、と。いや、なかなか緊張しますけどね。
追加のうに(「ちょっと高いですよ」と言われた)も合わせて、地酒入れて1万円くらいだったか。贅沢だけど、なんか最後の会話が上等な水菓子のようで、プライスレスな時間だった。終わってみれば、ひとり鮨、よかよか。大人の階段あがったな。
さて、今日はこのあと17時からもう一軒、別の肝試しに行くのだ。それまで腹ごなしの散歩に、レッツ須磨へ! 我ながら、旅程づくりの天才か(たぶんちがう)。
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