2025.6.24
第2回 親密さゆえにエスカレート!? 夫婦げんかの応酬
大塚さんの研究手法は、当事者に実際の会話を録音してもらい、どのような場面で、どんなことばが用いられ、そのことばを通してどのように人間関係がつくられていくかを分析するというもの。リアルな会話を手に入れるのは困難を極めるそうですが、苦労の末に入手しただけあって、その中にはコミュニケーションを円滑にするためのヒントがいっぱい。
今回は、夫婦げんかを取り上げます。親密な間柄であるがゆえに、遠慮なくずけずけと言い合ってしまい、ヒートアップしがち。お互いをよく知っているだけに、最も言われたくない一言をズバッと突いてきます。傷つけ合うだけの不毛な言い争いを終わらせるには何が必要か? ある夫婦の間で実際に行われた口論を題材にして考えます。田房永子さんの漫画とともにお楽しみください。
イラスト・漫画/田房永子
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夫婦という危うい関係
結婚をしたことのある人なら誰しも、一度はパートナーとの諍いを経験したことがあるだろう。大声で怒鳴り合うこともあれば、嫌味や皮肉でやりこめようとすることもあるかもしれない。
夫婦関係はあらゆる人間関係の中で最も親密な関係の一つだ。しかし、「最も親密」であることは必ずしも、「最も仲良し」であることを意味しない。通常人は、日常コミュニケーションの中で互いのテリトリーの侵犯を回避することによって互いを尊重し合っている。しかし、親密な関係ではその「儀礼」が失われていく。夫婦とは、ある意味では気を遣うことなく「素の自分」でいられる貴重な関係であるといえるが、一方で気に入らないことがあると、配慮なく相手のアイデンティティやプライバシー、内面にまで踏み込んで攻撃を行うことが許されると思ってしまう、危うい関係でもある。
今回は、実際の夫婦げんかの会話を分析し、親密な関係でどのように対立が行われているのかを見ていきたい。
※以下の会話は、当事者の了解を得て掲載しています。
リアルな夫婦げんかを分析する
千夏(妻・仮名)…20代後半
修平(夫・仮名)…20代後半
両者とも関西出身、関西在住。結婚期間は5年(記録当時)
二人は、自分たちの子どもの中学校進学に関する話題で意見を対立させている(子どもはまだ幼稚園児)。以下に二人の立場をあらかじめ示しておく。
・地元の友人が必要
・経済的レベルが比較的高い家庭の子どもが集まる私立中学への進学は反対
千夏:私立中学出身。私立中学に進学させるべき
・友人はどの中学校に進学してもできる
・大学進学に力を入れている私立の中学に通わせるべき
子どもの進学先をめぐる対立
――0.8秒の間――
――0.8秒の間――
――8.0秒の間――
――25秒の間――
――5.5秒の間――
――8.5秒の間――
この後は同じようなフィラー(間を埋めるための意味のない発話)が数回繰り返され、しばらくして会話記録は終わっている。
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