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第1回 ママ友の対立──「タメ語」と「敬語」を使い分け、巧みに攻撃!

学校や職場はもちろんプライベートの人間関係でも「コミュニケーション力」なるものが求められる昨今。ありとあらゆる場で起きているコミュニケーションの行き違いを、社会言語学者の大塚生子さんが解きほぐします。

大塚さんの研究手法は、当事者に実際の会話を録音してもらい、どのような場面で、どんなことばが用いられ、そのことばを通してどのように人間関係がつくられていくかを分析するというもの。リアルな会話を手に入れるのは困難を極めるそうですが、苦労の末に入手しただけあって、その中にはコミュニケーションを円滑にするためのヒントがいっぱい。

そこで第1回は、ママ友とのやり取りを取り上げます。日頃、良好な関係を保っていても、ある日突然、攻撃の矢が飛んでくることも。そんなとき一体、どう対処するのか? 田房永子さんの漫画とともにお楽しみください。

イラスト・漫画/田房永子

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二つの役割をもつ「ママ友」

私は社会言語学・語用論という分野で、人々がコミュニケーションを通して社会的関係をどのように構築・維持、時に破壊するのかを明らかにする研究をしている。どんなコミュニケーションも、社会的背景なしには存在しない。

この連載では複雑化する現代の社会背景を視野に入れつつ、さまざまな日常のコミュニケーションを取り上げて、そこでどのように人間関係が築かれ、時に破綻していくのかを分析していく。読者のみなさんが、何気なくおこなっている日々のコミュニケーションを改めて考える機会になれば幸いである。

今回は、ママ友の間の対立を考えたい。ママ友関係を学生時代の友人関係とは異なるものとして特徴づけるのは、何よりもまず子どもの存在である。ママ友という人間関係は、極言すれば、わが子が集団内でうまくやっていく術を学んでいく上で円滑に保っておくべき母親たちの義務的な関係でしかない。

しかし現代の核家族社会において、多くの母親たちは孤立している。そんな中、ちょっとしたおしゃべりを楽しんだり共感し合えたりする相手は自然と、日々顔を合わせる「ママ友」となることも多いだろう。自分を取り巻く状況や興味のある話題に共通点も多く、育児期の母親にとってママ友はまさに、最も親しい「友だち」になることすらある。

こうして、義務的だったはずの「保護者」としての関係が、感情的な結びつきのある「友だち」になっていく。しかし、ママ友関係の難しさの1つは、時にこの2つの役割が対立することにある。

それでは「保護者」と「友だち」というジレンマに挟まれたとき、ママ友たちはどのようにそれに対処するのだろうか。今回は、ママ友間のメールによる対立場面を取り上げ、彼女たちがこうした2つの役割をどのように使い分けているのかを分析していきたい。

※以下の会話は、筆者が過去に観察・調査した複数のやり取りの傾向をもとに構成したもので、実在の人物や出来事とは無関係である。

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息子がある日突然「加害者」に!?

【登場人物】
康子…30代後半
翔太…康子の息子(小学4年生)
里奈…30代前半
凛太郎…里奈の息子(小学4年生)

康子と里奈は、それぞれの息子が幼稚園の頃から数年来の友人であり、比較的親しい付き合いを続けている。普段の会話では互いに関西弁のタメ語であり、姓ではなく、下の名前の「◯◯ちゃん」と呼び合う。年齢差による上下関係はない。

以下のやり取りは、翔太が凛太郎から頭を狙ってボールを投げられたことに対して、翔太の母親・康子が苦情を訴えるところから始まる。

.(康子1)久しぶり。元気にしてる? 昨日うちの翔太が、凛太郎くんからボールを頭めがけて投げられてんて。とっさに避けたらしいんやけど、今度は顔に命中してやるって、しつこいらしくて。.

.(康子2)凛太郎くんはふざけただけなのかもしれへんけど、凛太郎くんにもうやめたげてって言っといてくれるかな!.

.(康子3)忙しいところ申し訳ないです。.

.(里奈4)そんなことしてるなんて全然知らんかった。。。ほんとにごめんね、二度としないように言っておきます。翔太くんにも謝っておいてください。すみませんでした。.

.(康子5)いえいえ!子どもの悪ふざけやと思うけど、万が一、頭に当たると大変やからね。どうかよろしくお願いします。.

――子どもの帰宅後――

.(里奈6)康子ちゃん、凛太郎に聞いてみたんやけど、そんなんやるわけない!って言い張ってるの。。。最近、翔太くんとは学校で会うこともないって。ちょっと話が食い違ってるみたい。私も何回も問いただしたんやけど認めないし、もう一回翔太くんにも聞いてみてくれる??.

.(康子7)翔太は、放課後にボールを投げられたと言ってます。それも、周りのお友だちも巻き込んで翔太に向って投げ合ってたみたいです。翔太はもう学校行きたくないと言っていて、ちょっと冗談ではすまない感じになってきています。もう二度とこのようなことが起こらないようにお願いできますか。.

.(里奈8)凛太郎は、昨日は習い事ですぐに帰ったから、放課後にボール遊びする時間なんてないと言ってます。私は二人にこれまで通り仲良くしてもらいたいと思ってるし、本当に凛太郎がそんなことをしたなら謝りたいです。
でも、何回も問い詰めても凛太郎はやってないと言うし、私も康子ちゃんが翔太くんを信じるのと同じように、凛太郎が嘘をついているようには思えなくて。ほんとのところが分からないから、明日学校で先生に話し合いを持たせてもらったらどうかな?親が入ると感情的になってしまって、こじれてしまうといけないし。。。学校にお手紙書こうと思います。翔太くんにもお話してもらうことになると思うので、よろしくお願いします。仲良くしてもらってたのに、こんな風になって本当に残念です。
.

.(康子9)こんばんは!返信ありがとうございます。うちらはそんな深刻な感じでお伝えしたのではなく、ただ、仲良くしてもらいたかっただけで。せっかくボール遊びするならお互い楽しくやってほしいと思ったので!!うちはもう何も気にしてないので、これからも仲良くしてあげてくださいね(*^^*).

――翌日――

.(康子10)こんばんは〜、今日先生が間に入って話し合いしてくれたみたいです(^_^)v二人とも納得して終わったみたいで、解決してよかったです。翔太が、また凛太郎くんと遊ぼうね!と言ってます(^。^)うちはもう何も気にしてないので。これからもよろしくお願いします〜!.

.(里奈11)こんばんは。話し合いしたこと聞きました。最後まで話が食い違ってたみたいやけど。うちも凛太郎は気にしてないし、また翔太くんと仲良くしたいと言ってるので、よろしくお願いします!.

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新刊紹介

大塚生子

おおつか・せいこ
大阪工業大学工学部准教授。専門は社会言語学、語用論。実際に交わされたコミュニケーションをもとに、ことばがどのように人間関係を築いていくかを分析。主な論文は、「ママ友の対立場面におけるイン/ポライトネス分析―感情と品行のフェイスワーク」。編著に、『イン/ポライトネス研究の新たな地平: 批判的社会言語学の広がり』(三元社)、『イン/ポライトネス―からまる善意と悪意』(ひつじ書房)など。

田房永子

たぶさ・えいこ
漫画家。2000年にデビューし、第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。若い頃から母親の過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA)が反響を呼ぶ。そのほか、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)、『大黒柱妻の日常』(MdN)、『人間関係のモヤモヤは3日で片付く』(竹書房)、『女40代はおそろしい』(幻冬舎)など話題作多数。

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