2025.5.27
第1回 ママ友の対立──「タメ語」と「敬語」を使い分け、巧みに攻撃!
大塚さんの研究手法は、当事者に実際の会話を録音してもらい、どのような場面で、どんなことばが用いられ、そのことばを通してどのように人間関係がつくられていくかを分析するというもの。リアルな会話を手に入れるのは困難を極めるそうですが、苦労の末に入手しただけあって、その中にはコミュニケーションを円滑にするためのヒントがいっぱい。
そこで第1回は、ママ友とのやり取りを取り上げます。日頃、良好な関係を保っていても、ある日突然、攻撃の矢が飛んでくることも。そんなとき一体、どう対処するのか? 田房永子さんの漫画とともにお楽しみください。
イラスト・漫画/田房永子
記事が続きます
二つの役割をもつ「ママ友」
私は社会言語学・語用論という分野で、人々がコミュニケーションを通して社会的関係をどのように構築・維持、時に破壊するのかを明らかにする研究をしている。どんなコミュニケーションも、社会的背景なしには存在しない。
この連載では複雑化する現代の社会背景を視野に入れつつ、さまざまな日常のコミュニケーションを取り上げて、そこでどのように人間関係が築かれ、時に破綻していくのかを分析していく。読者のみなさんが、何気なくおこなっている日々のコミュニケーションを改めて考える機会になれば幸いである。
今回は、ママ友の間の対立を考えたい。ママ友関係を学生時代の友人関係とは異なるものとして特徴づけるのは、何よりもまず子どもの存在である。ママ友という人間関係は、極言すれば、わが子が集団内でうまくやっていく術を学んでいく上で円滑に保っておくべき母親たちの義務的な関係でしかない。
しかし現代の核家族社会において、多くの母親たちは孤立している。そんな中、ちょっとしたおしゃべりを楽しんだり共感し合えたりする相手は自然と、日々顔を合わせる「ママ友」となることも多いだろう。自分を取り巻く状況や興味のある話題に共通点も多く、育児期の母親にとってママ友はまさに、最も親しい「友だち」になることすらある。
こうして、義務的だったはずの「保護者」としての関係が、感情的な結びつきのある「友だち」になっていく。しかし、ママ友関係の難しさの1つは、時にこの2つの役割が対立することにある。
それでは「保護者」と「友だち」というジレンマに挟まれたとき、ママ友たちはどのようにそれに対処するのだろうか。今回は、ママ友間のメールによる対立場面を取り上げ、彼女たちがこうした2つの役割をどのように使い分けているのかを分析していきたい。
※以下の会話は、筆者が過去に観察・調査した複数のやり取りの傾向をもとに構成したもので、実在の人物や出来事とは無関係である。
記事が続きます
息子がある日突然「加害者」に!?
康子…30代後半
翔太…康子の息子(小学4年生)
里奈…30代前半
凛太郎…里奈の息子(小学4年生)
康子と里奈は、それぞれの息子が幼稚園の頃から数年来の友人であり、比較的親しい付き合いを続けている。普段の会話では互いに関西弁のタメ語であり、姓ではなく、下の名前の「◯◯ちゃん」と呼び合う。年齢差による上下関係はない。
以下のやり取りは、翔太が凛太郎から頭を狙ってボールを投げられたことに対して、翔太の母親・康子が苦情を訴えるところから始まる。
――子どもの帰宅後――
でも、何回も問い詰めても凛太郎はやってないと言うし、私も康子ちゃんが翔太くんを信じるのと同じように、凛太郎が嘘をついているようには思えなくて。ほんとのところが分からないから、明日学校で先生に話し合いを持たせてもらったらどうかな?親が入ると感情的になってしまって、こじれてしまうといけないし。。。学校にお手紙書こうと思います。翔太くんにもお話してもらうことになると思うので、よろしくお願いします。仲良くしてもらってたのに、こんな風になって本当に残念です。.
――翌日――
記事が続きます