よみタイ

このシチュエーションで「その格好かよ!?」ー服装とは難しいものだと痛感した瞬間

胸ときめく沖縄への旅にKが持参したバッグはといえば

同じ三人で沖縄へ旅行したこともある。
その時もやはり私は初めて行く沖縄に胸をときめかせており、事前に購入したガイドブックを眺めて数日前からどこを観光してまわろうかと悩み、美味しい食べ物に目がないもう一人の友人MはMで、旅先で絶対に食べておきたい料理店を情報誌か何かでピックアップして、と、それぞれ出発日に備えていた。

旅行当日、やはり私は家の前でKが歩いて来るのを待っていた。旅費を節約しようと少しシーズンを外しての旅行だったため、東京はすでに肌寒さを感じるような気候だった。
向こうからゆっくりとKがやってくる。よかった、カーディガンを羽織っている。向こうも案外寒い日があるというし、ある程度の温度調節はできた方がいい。しかしそれはいいのだが、右手に持っているのがコンビニで買い物をした時にもらえる小さめのビニール袋ではないか。

確かにレジ袋って何かと便利なものだけど……
確かにレジ袋って何かと便利なものだけど……

「あれ、荷物、それだけ?」「うん! パンツとタオルだけでいいっしょ!」と、やはり平然とKは言うのだった。空港で搭乗手続きを済ませ、我々は手荷物検査のゲート前にやってきた。リュックやポーチなど様々な荷物をトレーに乗せた人々がそこを進んでいく中、Kのトレーの上はコンビニ袋一個である。
「検査っていうかもうこれ、中身透けて見えてるよね」とMが笑っていた。

トレーの上をゆっくり流れていくビニール袋を眺めている時、私の「夢のドキドキ沖縄旅行」のイメージが音を立ててしぼんでいくような気がしたのが、今でも忘れられない。

(了)

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新刊紹介

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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