2021.3.9
このシチュエーションで「その格好かよ!?」ー服装とは難しいものだと痛感した瞬間
当然のことながら、参考になるような情報は見つからなかった。
なんせ「初デート 服装」や「授業参観 服装」とかじゃなく「署名提出」である。「署名提出の決め手はやっぱり清潔感!」みたいなことを教えてくれるまとめサイトがあったりするはずもないのである。
そんな友人の話に笑いつつ、もし自分だったらと想像するとやはり同じようなことをしていたかもしれないなと思った。ちなみに友人は、活動をサポートしてくれる関係者の方に相談した結果、「綺麗めのジャケット」を着て行き、立派に役目を果たしたとのことだ。
おい…このタイミングでその格好かよ!
その話に引っ張られるようにして、「このタイミングでその格好かよ!」と驚いた話を思い出した。
私には中学生時代から今まで付き合いの続いている幼なじみが二人いる。KとMというその二人とは、同じ中学校を卒業してそれぞれ別々の高校に進学してからも、たまに三人で集まっては他愛もない話をしたりゲームをしたりして遊んでいた。
20歳前後の頃だったろうか、夏にその三人で船に乗って伊豆大島へ行こうと計画を立てたことがあった。真夏の離島。海で泳いで花火をして美味しいものを食べて、一点の曇りもないような楽しい時間がきっと過ごせるはず。もしかしたら向こうで友達ができたり、素敵な出会いだって待っているかもしれない。「初めて行く伊豆大島。一体どんなところなんだろう!」と、旅の数日前から私の胸は高鳴っていた。
今思えばただ旅行に行くというだけで何をそんなに期待していたのかと自分でも思うが、若気の至りというのだろうか、「この旅をきっかけに人生が変わるかもしれない!」というぐらいに前のめりな勢いがその時の私にはあった。
さて当日。うまく眠れず、だいぶ早起きして持ち物を入念にチェックし、当時の自分が一番気に入っていたコーディネートに身を包んで家を出た。私は家の前でKがやって来るのを今や遅しと待っていた。Kの家は近所なので、合流して最寄りの駅まで向かおうと約束していたのである。
まだかな……と思っていると道の向こうからゆっくりとKが歩いてきた。
「おはよう!」とこっちに向かって手を振るKの姿を近くでよく見ると、まず手に持っているバッグがマルイで買い物をするとくれる真っ赤なショッピングバッグである。
いや、別にいいんだ。確かに布製でちょっと丈夫な作りだから捨てるのはしのびないようなものなのだが、しかしこれからウキウキの夏のバカンスが始まるというのにそれかよ!と思った。
「荷物、マルイのバッグなの?」「うん!いいかなーと思って」「まあ、そうか」と、Kの着ているTシャツの胸元のプリントに目をやると、どうやらそれはKの実家の理容店で、同業者を集めた催事か何かをやった時に作ったものらしい。「ヘアカットフェスティバル」かなんか、そんなフレーズが英語で描いてあった気がする。
「そんなTシャツ持ってたっけ?」「うん、家にあったから!」と、平然とした様子のKを見て、私が頭に浮かべていたバカンスのイメージがシュワーッと蒸発していくような気持ちがしたのを覚えている。