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スズキナオ「この世の隅っこの「むう」な話」

洋式トイレの便座を上げ、便器のふちに両足を乗せて用を足す人は結構いるものなのだろうか

今こそ、あのトイレ目撃事件について話すときだ!

中学生、多感な時期である。「ヤバいところを見られた……」と私は放心状態になり、かといって「いや、さっきのあれさ!」と開き直ることも性格的にできず、トイレから出た後、ただただ気まずい時間が流れた。

私が心の底から恥ずかしそうにしている様子をMも察したのだろう。幸い、それ以来そのことについて言及される機会は一切ないまま、何事もなかったかのように元通りの日々が訪れた。

その後、中学校を卒業し、高校2年生か3年生になってようやく私は洋式スタイルを習得することに成功。いつの間にか普通に用を足すことができるようになっていた。

大学生になって酒を飲む楽しさが少しずつ分かりかけてきたある日、MとKと三人で居酒屋へ行くことになった。まだ飲み慣れない酒の酔いもあったのだろう、出会いから月日が経ってもこうして三人で遊んでいるということが素晴らしいことに思えてきて、「俺たちも長いつきあいだよなぁ! 最初に会った時のことおぼえてる?」とかなんとか、昔を懐かしんでみたいような気分になっていた。

思い出話が次々に出てみんなで笑い合う中、私はふと、あのトイレの目撃事件について、今こそ話したいと思った。だいぶ時間が経って、恥ずかしい過去をようやく客観視できるようになっていたのだろう。
「実は洋式トイレを間違った方法でずっと使ってきた。そして中学の時、それをMに目撃されて以来ずっと恥ずかしかった」と、そう話した。

大人になって酒を飲む楽しみも覚え、思い出話に花は咲く
大人になって酒を飲む楽しみも覚え、思い出話に花は咲く

Mが「ははは。そんなことあったよな! あれ、びっくりしたよ」と言い、「やっぱり憶えてたか!……っていうかいきなり開けるんだもんなぁ」と私は照れた。
「いきなりあれ見たら驚くよね。でもあの頃、ああやんないと力が入れられなかったんだよ」と言い訳をして、私はようやく胸のつかえがとれたような、スッキリとした気分になっていた。

すると、そこまで横でじっと話を聞いていたもう一人の友人Kが「僕、今もそのやり方だよー」と、拍子抜けするような、さもそれが当然というような口調で言った。

「え! そうなの?」「うん。だってその方がふんばれるもん」「便座を上げて、のぼって、タンクに向かって?」「そうそう、同じ同じ」「えー!」と盛り上がるKと私を横目に、Mがボソッと「俺の方が少数派だったのか……」とつぶやいた。

「こいつらと友達になるのも、運命だったんだろうな」と、私は酔いながら謎の感慨にひたったのであった。ちなみにそれからさらに10年近く経った今、Kもようやく洋式スタイルに慣れたとのことだ。

(了)

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スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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