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スズキナオ「この世の隅っこの「むう」な話」

洋式トイレの便座を上げ、便器のふちに両足を乗せて用を足す人は結構いるものなのだろうか

いつものように便器のふちに足を乗せて用を足していたら

そんな私には中学時代から今に至るまで付き合いのある地元の友達が二人いて、三人組でよく遊んでいた。同じクラスだったことをきっかけに知り合ったのだが、中学を卒業してそれぞれが別の高校に進んだ後も付き合いは途切れず、ずいぶん後に一緒にバンドを組むことになったこともあって、今まで生きてきて出会った他のどの友人たちよりも長い時間を過ごしてきた。

その二人、MとKという友人の片方、Mと私の家で遊んでいた時のことである。
当時中学生だった私は音楽の面白さに目覚め、近所にあったレンタルCDショップでせっせとCDを借りてきては、それをカセットテープにダビングしていた。そうやって作ったカセットテープをラジカセで流しながらスナック菓子でも食べつつテレビゲームをする。そんな風にダラダラ遊ぶのが好きだった。

その日もMと私はカセットテープをかけてゲームをし、のんびりと楽しいひとときを過ごしていた。途中、便意を催した私はゲームを中断し、「トイレ行ってくる」と立ち上がった。そしていつものように洋式トイレのふちにのぼり、和式スタイルで用を足していたのである。
居間ではMがカセットテープを聴いている。すると、それまでCHAGE&ASKAなどのJ-POPが続いていたのが、突然、植木等の『スーダラ節』が流れた(当時、植木等がクレージーキャッツの往年の名曲を再録した『スーダラ伝説』という企画盤が出てヒットしていたのだ)。

友人Mはやおら立ち上がり、トイレに向かって歩いてきた。そして「おいおい! いきなりスーダラ節始まったんだけど!」とノブをひねってドアを開けたのだ。
自分の家ということもあって油断していたのか、私は鍵をかけ忘れていたらしい。

当時、足を乗せていたのは便座を上げたこの部分。タンクにつかまっていないと若干不安定だった
当時、足を乗せていたのは便座を上げたこの部分。タンクにつかまっていないと若干不安定だった

本来の使用法であれば私は便座に腰かけて、ドアからのぞくMと向き合うはずだが、和洋折衷スタイルを採用している私はタンク側を向いている。そして便器のふちに立っている。Mからすれば何をしているんだかまったくわからない状態だったろう。
「あ、ごめん……」と小さな声が聞こえ、ドアが閉まった。

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スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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