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スズキナオ「この世の隅っこの「むう」な話」
ふとした会話が、表情が、何気ない何かがずっと頭に残って離れない……そこで湧き上がる気持ちをスズキナオさんはこう表現することにした。「むう」と。この世の片隅で生まれる、驚愕とも感動とも感銘ともまったく縁遠い「むう」な話たち。

ところであなたは危うく死にかけた、というような経験はありますか? 病気や事故ももちろん怖いけれど、今思えば何気ない行動や状況が、一歩間違えば大変なことになっていたかも……今回はそんな他人事とは思えない話です。

倒れた箱のせいでトイレに閉じ込められ、死をも覚悟した瞬間にとったまさに決死の策

死にかけたことってある?という友人との会話から思い出したこと

先日、友人と会話していて「死にかけたことってある?」という話題になった。死にかけたことね――自分に問いかけてみると、思い出される場面が三つある。

一つめと二つめは小学生の頃のことだ。

体育の授業で水泳をして、ターンの仕方を教わった。体を丸めるようにして頭を前方に思い切り投げだすとクルンと回転することができる。「こんなことができるのか!」と感動したのを憶えている。ターンがすっかり気に入った私は、その日の夜、家の浴槽で同じことを試してみることにした。
学校のプールでやったように勢いよく体を回転させると、クルンと回れたのはいいものの、浴槽が狭いから、頭が下になった状態でキュッと動きが止まってしまった。必死にジタバタともがいて事なきを得たが、初めて死の恐怖を感じた瞬間だった。

もう一つは、三歳年下の妹と布団の上で遊んでいて、ふいに「俺を布団で巻いてみてくれ!」と命令した時のこと。なんでわざわざそんなことを命じたのか今考えても不思議だが、妹がその命令に忠実に従って私を布団の中に巻き込んだ結果、息ができなくなって死ぬかと思った。どちらも自分の愚かな思いつきが元になっており、大いに反省させられた。それ以降、だいぶ慎重に生きるようになった気がする。

そして、最後の三つめは大学生になってからの話だ。
昼休みに学食でご飯を食べていると同級生の一人が「今度MACの新しいパソコンが出る。それがすごい高性能だから買った方がいい」と言う。当時の私はパソコンだのインターネットだのに疎く、それがどういうものなのか何一つとしてわかっていなかった。

それでも友人の熱意にほだされ、自分はMACのパソコン購入を決意した

「いや、パソコンは別にいらないなぁ」とその時の私は気のない返事をしたはずだが、同級生は「いや、今は就職活動もインターネットでやる時代になっている。だから絶対にパソコンはあった方がいい。どうせ買うことになるんだから、MACのそれにした方がいいよ!」と引き下がることなく熱弁をふるった。

実際、就職活動を始めるべきタイミングが近づいてきてはいて、そのために“絶対あった方がいいのだ”という売り文句は私の胸に刺さった。
「考えられないぐらいの性能のやつが、これまでじゃあり得ないほど安い値段で発売されてるんだ!俺も買うつもり。わからないことがあったら教えるから、買いなよ!」と、今思えばそこまで同級生が熱心だったのも謎だが、その勢いに押された私は言われた通りMACのパソコンを買うことにした。

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スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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