よみタイ

部屋のど真ん中でテントを広げて、たためないまま暮らした4日間

「だから、逆にこの状況を楽しもうと思って、テントの中でご飯とか食べたらキャンプ気分が味わえるかも、ってやってみたんだけど、中がすごく暑いから我慢できなくてすぐ出た」という。

「あとはとにかくひたすら邪魔」だっだそうである。

8畳ほどの広さのキッチンの前を2メートル四方のテントが占めている。
「ご飯を作るスペースはなんとかギリギリあるんだけど、できたものを隣の部屋に運ぶ時がめちゃくちゃ大変だった。冷蔵庫とテントとの間が10cmぐらいしかなくて、そこを通ろうとすると必ず足の小指がどこかにぶつかる」という数日間。

「なんでこんなことになったんだろう」と我にかえる瞬間が何度もあったとのこと。

自宅内テントの中はただ狭く暑いだけでキャンプ気分とは程遠い
自宅内テントの中はただ狭く暑いだけでキャンプ気分とは程遠い

さて、Tさんはテントと同じタイミングでマットも購入していた。

テントの床面は薄く、そのままでは横になった時などに体が痛い。厚みがあって軽量なマットを床面に敷くのがおすすめという情報があったので、それも買うことにしたのである。
しかし、届いたものはテントの床面に敷くマットではなく、テントと地面との間に敷く「グランドシート」というものだった。間違えて買ってしまったらしいのだ。「グランドシート」もそれはそれで、地面の冷気や湿気からテントを守ってくれるグッズだから無意味ではないのだが、欲しいものとは違う。

そこで改めてマットも買うことにして、それが届き、いよいよテントの床に敷いてみようと思ったら、今度はサイズが違う。

「ちゃんと確かめたはずなんだけど……」と語るTさんを見ていて、私はこみ上げてくる笑いを抑えることができなかった。

4日間のテント暮らしが与えてくれた幸せがひとつだけあった

非常時用に買ったテントを部屋の中で広げたらたためなくなり、マットを買ったつもりが間違えてシートが届き、「次こそ!」と買ったマットはサイズが違うという、この果てしないブレっぷり。
自分の「同じような青い短パンをたくさん買った夏」なんて、爽やかなものに思えてくる。「いいじゃないか!青い短パンなんか! いくらあったっていい!」と励まされるような気がしてくる。

友達に手伝ってもらった結果、Tさんのテントは元通りコンパクトに収納することができた。
不自由な4日間だったが、一つだけすごくよかったことがあったという。

テントが無くなってみると、部屋がものすごく広く感じられるようになったのだ。
「うちってこんなに広かったんだ! 最高!」と、しばらくは新鮮な感動が味わえたそうなので、家が狭くて嫌だという人は、一度テントを広げて過ごしてみるといいかもしれない。

(了)

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スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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