よみタイ

部屋のど真ん中でテントを広げて、たためないまま暮らした4日間

打ちひしがれた私は、これがきっかけで、以前買い物の失敗について友人から聞いた話を思い出した。
名前を仮に「Tさん」とさせていただこう。

ここ数年、自然災害が猛威をふるっていることに対して強い危機感を持っているTさん。地震、台風、豪雨など、いつどんなことが起こって突然の避難生活を強いられるかわからない。災害関連のニュースをチェックしていて、コンパクトなサイズのテントが避難時に役立つことを知り、購入することにした。

持ち運びやすい軽量なテントがあれば、体育館のような広い場所で避難生活をすることになってもある程度はプライバシーを守ることができるし、自宅で猫を飼っているTさんにとっては、万が一近くの避難所でペットを受け入れてもらえない場合、公園などにテントを張って急場をしのぐためにも活用できる。Tさんの家には、緊急時に必要なグッズを収納した避難袋が常日頃からきちんと準備されており、その避難セットにテントも加えるつもりで購入したという。

テントは期待どおり、いや、それ以上のものが届いた。だがしかし……

さて、後日配送されてきたテントを受け取り、その軽さとコンパクトさに驚きつつ、一度試しに開いてみることにしたそうだ。緊急時に使う想定のものなのだから、練習が必要だ。収納ケースから取り出すだけですぐ設置できるタイプのものを選んだのできっと簡単なはず。
台所の前に置かれたテーブルや椅子などを動かしてスペースを作り、そこでテントを広げてみる。なるほどバサッと広がり、一瞬で設営は完了。本当に簡単だった。テント内も予想以上に広々としていて、「これはいい買い物をした」と思ったそうである。

しかし困ったことに、収納の仕方がわからない。説明書通りにやってみるのだが、何度トライしてもうまく折りたためない。「8の字にねじってください」と書いてある意味がどうしてもわからない。無理に力を加えたら折れそうで怖い。

もうどうすることもできなくなり、途方にくれた。
目の前には部屋いっぱいにテントが広がる謎の光景。

コンパクトタイプとはいえ、家の中でのテントの存在感は抜群
コンパクトタイプとはいえ、家の中でのテントの存在感は抜群

どこかSF的な、近未来的な雰囲気にも見えて笑える。
「困ったけど、週末にアウトドアとかに詳しい友達に会う予定があったから、その時に頼んでたたんでもらおうと思って、とりあえずそのまま生活することにした」と語るTさん。

4日間ほど、部屋のど真ん中にテントがある状態で暮らすことになった。

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スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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