2020.7.28
見たことすらない三匹の犬の話でビールがすすむ夜
あるいは飼ったことはありますか?
では、見たことも会ったこともない犬に思いを馳せたことはどうでしょう?
久々に会う友人と、居酒屋で瓶ビールを飲みながら話していた。
その友人は秋田県の出身で、現在は東京で会社勤めをしている。営業職についていて、あちこちに出張する機会がある。この話を聞いたのは、彼が得意先と打ち合わせをするために私の住む大阪に出張してきた時のこと。彼の仕事が終わった翌日、ようやく自由な時間ができたところで一緒に飲もうと待ち合わせ、気楽なムードで他愛もないことばかり話しあっていた。
夜中にこっそり家を抜け出すだけでワクワクできたあの頃
友人が聞かせてくれたのは、高校生の頃の思い出話だ。
優等生でも不良でもなく、おとなしい生徒だったという友人の思春期の楽しみといえば、クラスメイトの家に夜中に集まり、どうでもいい話をして笑い合ったり、ゲームをして遊んだりして過ごすことだったという。
真夜中にどこかに集まっているというだけで、自分たちがちょっと特別な体験をしているかのように思えてやたら楽しい時期がある。誰も気づかない時間を自分たちが独占している気がして、力がみなぎってくる。
同じように高校時代の私も、気を許せる数少ない同級生たちと、お互いの家のちょうど中間地点あたりにあるファミレスに集まり、ドリンクバーだけで何時間も粘りながら話し込む時間が好きだったから、その気持ちがよくわかる。
その時の自分たちができる限りのオシャレをして、ファミレスに集合するのが恒例だった。とはいえ、私も私の友人たちも、クラスの中で存在感を発揮することのない地味なタイプで、ファッションセンスもなにもあったもんじゃない。ある時、家族そろって視力がよかった私の家になぜか一つだけあった度ナシの丸メガネをかけてファミレスにおもむいた。
自分の中では、当時放送されていたテレビドラマ『あすなろ白書』で「取手治」を演じるキムタクのイメージだったのだが、店内に入って行くと、先に待っていた友人たちが笑いをこらえきれぬ様子で、「それ、どうした……⁉︎ 70年代みたいだけど」「フォークかな?」「ジョンレノンかな?」とからかってくる。
私は「はは……そうそう、イマジン……」と情けなく笑いながらメガネを外してリュックにしまい、一生この視力を保っていこうと誓った。